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SS作品集
第22章 カード
一件の店の前で並べられた商品を見ていると、売り手の男が声をかけてくる。
専門分野は違うが、この時代の言葉もある程度習得してきた。
「お兄さん、未来の人だね。お金はちゃんと持ってるかい?」
「お金?」
「やっぱりそうか……。こんな小さな店じゃ、カードは使えないよ。現金商売だからね」
そうだ。この時代には、お金という物が必要だったんだ。
お金と交換に品物を買う。
それだけは授業で習ったが、すっかり忘れていた。
僕の時代に、お金は存在しない。
世界共通の単位はあるが、全てカードで決済される。勿論小売店など無く、店と呼ぶものは全てインターネットでの販売。
「お兄さん。これを土産にあげるから」
売り手が差し出してきたものを、掌に乗せられた。
丸くて小さい銀色の物。
「それは、一円ていうんだよ。それじゃ何も買えないから、土産にすれればいい」
「はい。ありがとうございます!」
こんな古い時代の古銭を貰えるなんて。
僕の一生の宝物だ。
周りで持っている者はいない。
「いちえん……」
呟いてから売り手に頭を下げ、また歩き出した。
了
こんな時代もすぐ近くに……。