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SS作品集
第23章 1143円
給料日まで、あと一週間。
財布の中には、1143円しか入っていなかった。
田舎から送ってきた米があるから、家でなら塩でもかけて食べればいい。
公共料金の支払いは、給料後でいいから問題なかった。交通費は定期がある。
問題は会社での昼食だ。
まさか塩おむすびだけを持って行くわけにもいかない。
俺はギャンブルもしないし、酒の付き合いも程々。彼女もいなければ、女遊びなんてしたことがない。
つまり浪費家ではなく堅実だという意味。
だが今月は、好きなアイドルのCDや続けて買っている本がたまたま重なって発売されてしまった。
いつもならそれらを少し買えば済んでいたのに、俺の誤算だったと言うしかない。
年老いた両親に、仕送りを頼むのも憚られる。友達でも、借金をするのは好きじゃない。
とにかく、節約するしかないだろう。
父親の具合が悪いと嘘をついて、三日間の有休を取った。
これで、会社での昼食代が浮く。
だが、三食米に塩だけではさすがに飽きてしまう。
近所のスーパーへ行き、卵とふりかけを買った。
合計284円。
これで残りは859円。
卵はそのままだったり焼いたり。結構重宝してくれる。
それで三日間をしのぎ、有休は音楽を聴いたり本を読んで過ごした。
有休が明けて会社へ出勤すると、昼食を食べないとおかしいと思われる。
そう思い、俺は看病疲れで体調が悪い振りをした。
食欲がないと言い、昼食を食べに行く同僚を見送る。社内で弁当を食べる者もいたから、その匂いに腹がなってしまう。
それを誤魔化すためにトイレに行くといい、あまり人が来ない給湯室で水をガブガブ飲んだ。
しかし水をたくさん飲むと本当にトイレへ行きたくなる。
体調が悪い。よくトイレへ行く。それが上手く結びついてくれ、みんなに心配された。
心配した上司も定時で帰してくれて、同僚に謝ってから急いで家へ帰る。
最寄り駅からの帰り道、普段は気にならない飲食店からの匂いに耐えるしかなかった。