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SS作品集
第25章 オーガストフール
亜里沙(ありさ)は制服に着替えて学校へと向かった。
高校に入っての初めての夏休み。今日は登校日で、久し振りにクラスメイトと会えるのを楽しみにしていた。
みんなに会えるということで、何だか身も軽い。
中学までの夏休みの登校日は朝で、普通の登校時間だったのに、今日は15:00集合。
高校生になると違うんだ、くらいにしか亜利沙は考えていなかった。
昇降口で、持って来た上履きに履き替える。
校庭では野球部が練習していたが、夏休み中ということで校内は静まり返っていた。
四階の自分のクラスまで階段を登って行く。久し振りのせいか、その足が軽いと感じた。
教室の扉を開けると、中にいた全員が振り向く。
「亜利沙、おはよう! 久し振りー!」
優奈(ゆな)が駆け寄って来る。
そういえば、優奈とも他の仲がいい子とも、ずっと会っていなかった。夏休みに入って3週間経つというのに。
他のクラスメイトも口々に「おはよう」と言ってくるが、なぜかみんな白い浴衣を着ている。
優奈とは中学も同じで、今も仲が良い。そんな彼女が差し出してきたのは、折り畳まれた白いもの。
広げてみると、それはみんなと同じ真っ白な浴衣だった。
「何? これ」
亜利沙が訊くと優奈だけでなく、近くにいて声が聞こえた数人も笑い出す。
「やだあ、亜利沙ったら。忘れちゃったの?」
「先生に言われたじゃないか」
「これからイベントだって聞いてないの?」
口々に言われたが、亜利沙はどうしても思い出せない。
それでも優奈に急かされるように空いている隣のクラスに連れて行かれ、浴衣に着替えるのを手伝って貰った。
夏休みの登校はクラス別。亜利沙のクラスの両隣を男女別にして、着替え場所に使っている。
浴衣は袖も丈も亜利沙にピッタリのサイズ。お端折(はしょ)りをする必要もなく、これなら1人でも着られただろう。
それについて優奈に言うと、今は見えないが、襟の内側に1人1人の名前が書いてあるのだと聞いた。