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SS作品集
第25章  オーガストフール


「はい。これを穿いて」
 優奈が足元に置いたのは、本当に藁で編んだ草鞋(わらじ)。
 最初は少しチクチクしたが、慣れてくると心地のいいものだ。
 まるで肝試しでもやるような格好。
 さっき1人がイベントと言っていたから、これから始めるのかもしれない。考えながらも、亜利沙はそれを忘れていたことが不思議だった。
 彼女は遊園地のお化け屋敷やホラー映画が好きで、みんなで騒ぐことも楽しい。
 教室に戻って席に着き、近くの友達と少し話していると、全員が揃って担任が入って来た。
 やはり生徒と同じように、白い浴衣を着ている。担任までノっているようで、面白いと亜利沙は思う。
「全員揃ってるみたいだな」
 担任が教室を見回して言った。
「じゃあ、オーガスト・フールの始まりだ」
 オーガスト・フール?
 亜利沙は内心首を傾げる。
 エイプリル・フールなら知っているが。でもそれが、今日のイベントの名前なのかもしれない。亜利沙がそう考えていると、担任が前列の生徒にマスクのようなものを渡している。
 よく見ると前から回って来たのはマスクではなく、紐のついた三角の小さな生地。
「何? これ」
 不思議がっている亜利沙に、隣の子がそれを頭に着けてくれた。
 本格的な肝試しだ。
 亜利沙はワクワクしてきた。
 学校の裏側には、広いが夜は暗い林がある。多分そこで肝試しをやるのだろう。
「準備はいいか?」
 担任の言葉に全員が頷く。亜利沙も笑顔で頷いた。
「あ……。行ってきます」
 1人の男子が言うと、その姿が段々薄くなり、消えてしまう。
「えっ!?」
 亜利沙が声を上げると、また別の女子も消えていく。
「何なの?」
「亜利沙、どうしたの?」
 近寄って来た優奈が笑っている。
「だって……」
 戸惑うだけの亜利沙に、優奈は少し哀し気な面持ちになった。


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