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SS作品集
第26章 パーソナル・ドリンク
仕事終わりに、いつもの店へ行く。
中は男性も女性もいるが、全員が会社員。
顔見知りと挨拶を交わしながら適当な席に着くと、すぐに小型のヒューマノイドが近付いて来た。
人間のような体型ではなく、頭が丸くて胴体が筒状の物体。手足はないが、底からエアーが出る仕組みで、音も立てず滑らかに動く。
色々な物を感知する大きな目のような物が一つあり、その下にはカードの差込口。
僕はそこへ、自分のカードを差し込んだ。
「少々お待ちください」
そう言って、ヒューマノイドは戻って行く。
店の中は賑やか。
顔見知りの男がやって来て、前に座る。
「久し振りじゃないか。元気だったか?」
「まあ。ぼちぼちね……」
「あらぁ、お久し振りね。元気だった?」
ここで知り合った女性もやって来た。
二人とも手にグラスを持っている。
それぞれ会社が違うため、普段の付き合いはない。ここで会った時に話すだけの仲。
「お待たせいたしました」
さっきとは違うヒューマノイドが、飲み物を運んで来た。
今度は人型の物。
前に置かれたグラスで、二人と乾杯する。
「君、KR社が倒産間近なのを知ってるか?」
男が言う。
「そうそう。私も知ってるわ。海外進出して、失敗したのよね」
女が言うと、男と顔を見合って頷いている。
初耳だったが、僕にはあまり関係のない会社。かなりの大手だが、僕の会社には影響のない分野だった。
「大変よねぇ。社員はどうするのかしら。私だったら、すぐにでも辞めるけどね。退職金をもらって」
「女性はいいよ。君は結婚してるんだろう? 男で家族がいたら大変だよ」
「そうねぇ」
二人は話しているが、僕に詳しいことは分からない。
あんなに景気がよさそうな会社だったのに。
「おっ、何の話だ?」
また顔見知りの男二人が来た。
大きなテーブルだから人が増えるのは構わないが、内心は一人の方がいい。
僕以外の四人で盛り上がっているが、会話に付いて行かれなかった。