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SS作品集
第26章 パーソナル・ドリンク
「君。本当は知らないんじゃないか?」
後から来た男に言われ、愛想笑いをするしかない。
「ねぇ。会ったのが久し振りじゃなくて、ここに来るのが久し振りなの?」
女に言われて苦笑する。
「時代に取り残されるぞ」
「毎日通わなくちゃ駄目だぞ」
「そうよ。これだって、仕事みたいなもんなんだから」
口々に言われ、溜息をついた。
一気にグラスを空け、手を振ってから席を立つ。
出入り口には、さっきの頭の丸いヒューマノイド。
「ありがとうございました。またお越しください」
差込口から半分出ている、僕のカードを受け取って店を出る。
いつからだろうか。
パーソナル・ドリンクというものが普通になり、それを飲めば色々な情報を得られる。
能力によって飲みに行く店が決められ、毎日通わなければならない。能力は十段階に分けられ、僕は上から三番目。まずまずの位置だと思っている。
能力だけではない。
同じパーソナル・ドリンクを飲んでいる者は、思考まで同じになるのだ。
政府が考えた、人類同一化改革。
それでいいのだろうか。
知識を得るのは、確かに必要だと思う。
だが思考まで同じになり、いまや“オタク”という言葉は死語。
みんな同じアーティストが好きで、ドラマも同じ俳優達で創られる。だから、テレビやネットに出ているのもいつも同じ顔触れ。
小説や漫画も、数種類しか発売されない。
こんな世界で、みんな本当に楽しいのだろうか。
了
こんな世界。来て欲しくありません……。