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SS作品集
第27章 マリッジブルー
「彼と婚約して、来年の6月に結婚予定なので。来年の3月末で退社させてください」
愛花(まなか)は女社長に頭を下げた。
今の彼とは5年付き合っていて、30歳になる前に結婚したいという愛花の夢が叶ったのだ。
プロポーズされたのは1ヶ月前。嬉しかった愛花はすぐにOKして、もう結婚式への準備を始めている。
6月は式場が混むと雑誌で知り、既に予約済み。ウエディングドレスを選んだり、引き出物の内容を決めたりと、毎日考えることばかり。エステにも通い始め、少しのダイエットも始めた。
「愛花ちゃん、結婚するの!?」
「ねぇ、相手はどんな人―?」
「28歳で結婚するなんて、羨ましいわぁ」
話が聞こえた同僚達が、口々に言う。
愛花の勤めるのは、女性の下着をデザインする女性だけの小さな会社。社員は20数人で、みんな仲が良い。
仕事はどうしようかと彼に訊いた時、出来れば専業主婦になって欲しいと言われた。
8つ年上の彼は有名大手企業に勤めていて給料も良く、既に家族でも暮らせるような広さのマンションを所有している。お互いに早く子供が欲しいこともあり、愛花は会社を辞める決心をした。
いつものように、毎日同僚達と会社でお弁当を食べる。まだ先だが、愛花が会社を辞めるのを残念に思ってくれてのこと。
「男って、結婚したらすぐ浮気するから。恋人の時と変わって」
「そうよー、子供なんて出来たら特にねー」
「まだ、28歳でしょ? 急いで結婚することもないんじゃない?」
そんなことを毎日言われ続けると、愛花も心配になってしまう。
大学卒業直後に付き合い出し、何となく今まで来てしまった。恋愛経験の少ない愛花は、すぐ彼に夢中になってしまった。愛花は勿論彼を愛しているが、彼は女性にモテる。長身でイケメン。高収入でセンスも良く、誰にでも優しい。
でもこれはきっと、マリッジブルーというものだと愛花は自分に言い聞かせた。