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SS作品集
第28章 クリーンルーム
マンションへ着くと、エントランスの前に人が二、三人は入れるボックスがある。
これは子連れの者が入る時、一人用だと困るからだ。
ボックスは、クリーンルーム。
外からの菌を室内へ持ち込まない為の装置だ。
僕が生まれる前。西暦2500年くらいから設置されるようになり、今は建物全てに義務付けられている。
住宅や店舗は勿論。学校や公共施設の全て。駅には大型の物があり、50人ほどがいっぺんに使えるようになっている。
殺菌の時間は一分ほど。それでも、駅のラッシュ時には行列が出来てしまう。
遥か昔はそのまま室内に入り、手を洗ったり“うがい”というものをしていたと学校で習った。
現代に、恐ろしい細菌が増えたわけじゃない。逆に土や緑が減った為、細菌は少なくなっていると言われている。
僕は会社から帰宅した所。
クリーンルームで除菌をし、マンション内へ入った。
勿論、クリーンルーム内では口を大きく開ける。そのお蔭で、“うがい”というものをする必要はない。
クリーンルーム内では微かに風が出ているだけで、口を開ける他はただ立っているだけでいい。不快なことは何もない。
同時に認証も受ける。ここのマンションの住人であることを把握され、いつ出入りしたかも記録される。そのお蔭で、犯罪もないに等しい。
宅配業者の者や友人が訪れる際は、クリーンルーム内で部屋の番号を入力する。だから誰が来ても分かるし、細菌を持った者がマンション内へ入ることはない。
このマンションは、エレベーター内も簡易的なクリーンルームになっている。
エレベーターでは口を開けたりしないが、二重のセキュリティが安心だと、妻と相談してこのマンションを買った。
妻が言っていたが、食品を買って帰る時にも安心らしい。
食品は既にクリーンルームを通ってから出荷され、店舗に入る時、再度クリーンルームを通る。
それでも、買った後には外を持ち歩かなければならない。宅配にしても、必ず外を通るのは同じだ。
何より安全なのは、今年小学生になった息子のこと。
遊びたい盛りだから、どんな菌に襲われるか分からない。
僕もそうだったが、学校が終わって遊びに行くのは公共施設内に造られた公園。