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不器用な夫
第8章 当主



一緒に出されたお茶菓子はまだ桜の開花が始まったばかりだというのに、桜の花の砂糖漬けが添えられた桜色の水菓子…。

通された庭と同じで全てが客のもてなしを徹底してるとしか感じない藤原家の招待に僕は呆然とする。


「わざわざ京都まで…、本当にすまなかったね。本来なら国松家の方へ当主である僕が昌の無礼のお詫びに向かうべきだけど、君の知りたい事を知るには来て貰う方が良いと判断したんだよ。」


柔らかな口調で清太郎さんが言う。


「曽我君は…、悪くありません。」

「君は優しいね。だが昌はまだ見習いの立場で甘やかす事は出来ない。」

「そんな…。」

「それが国松家と藤原家の違いだ。君は生まれながらにして国松家の当主になる人だ。昌とは格が違うのだと自分を知るべきだよ。」

「僕には…、そんな器はありません。」


やたらと僕を持ち上げる清太郎さんから恥ずかしさに目を逸らす。


「おいで…、国松家の格の違いというやつを君はもっとよく知るべきだと僕は思う。」


清太郎さんは僕の手を握ったまま縁側からゆっくりと立ち上がりエスコートするような振る舞いで主屋の中へ僕を連れて行く。

曽我は黙ったまま僕と清太郎さんについて来る。

清太郎さんが向かったのは小さな小部屋だ。

和式で畳敷きの部屋は襖で囲まれ、床の間の壁には春を感じさせる桜が描かれた掛け軸があり、壺に刺されたモクレンの1枝が爽やかな香りだけを放つ以外は本当に何もない部屋だった。

その畳に清太郎さんと僕が向かい合わせに座り、僕の後ろに控えるように曽我が座る。


「足は崩してくれて構わない。リラックスして…。」


そっと清太郎さんが僕の耳元に顔を寄せて囁く。

そして清太郎さんが僕の顔を覗き込む。


「国松家の次期当主は随分と可愛らしい…、きっと奥方様に似たのだね。」


清太郎さんが春の微笑みだけを向ける。


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