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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
「結婚式はいよいよ再来週ですね。
…フランスから取り寄せたウェディングドレスもティアラも間に合って良かった」
楽しげに話す原嶋をぼんやりと見つめる。

…このひとと結婚する…。
原嶋は、魅力的な男だ。
大人の男で、大変な苦労人だけあって懐が広く、度量がある。
決断力や行動力もある。
興した事業では敏腕社長として鳴らしているし、部下達の人望も厚いらしい。

身につけるものは驚くほどに金がかかった一流品ばかりだ。
けれどそれが見事に似合っている。
長身と逞しい体躯、彫りが深く野性的な容貌、やや砕けたきらいはあるがユーモアのある話術…そして黙っていても滲み出るような牡のフェロモン…社交界のマダムや若い女性たちの中でも密かに人気のようだ。

今や地位も名誉も富も得た原嶋は、女性には不自由はないはずだ。
けれど彼は清良にだけ、一途な愛を捧げてくれている。
結婚の条件も、清良に有利なものばかりだ。

最後まで清良を嫁に出すことを渋っていた伊津子も、清良がこの家に居たままで良いと言う原嶋の結婚の条件を聞いてようやく軟化した。
「清良さんとこのまま一緒に暮らせるのね。
…それならば、清良さん次第よ。
貴方が原嶋様をお好きなら、お母様は構わないわ」

…原嶋と結婚したら…
思いを巡らせる。
…自分はきっと幸せになるだろう。
逞しく強い夫に守られて…。
両親も安心してくれるに違いない。
…それに、原嶋とは性格も合うかもしれない。
過去のあたしもすべて分かって受け入れてくれようとしているのだ。
何の気兼ねも心配もいらない。
…原嶋様はきっと、あたしを幸せにしてくれる…。
あたしには、それが分かっている…。


…でも…あたしは…。

再び、郁未の面影が脳裏に浮かび…清良はそっと首を振った。

…あの清潔で綺麗なひとを、いつまでも困らせてはいけない…。
あのひとは学院長だ。
そして、優しくて公平なひとだ。
あたしだけを特別扱いする真似は出来ないのだ。

…それから…
あたしの名誉を守るために、離れるつもりなのだ。
…優しいひとだから…。
…誰よりも、優しいひとだから…。

清良は脳裏の郁未の面影を封印し、原嶋ににっこりと笑いかけた。
「原嶋様、ドレスに合わせるレースは何メートルですか?
私、思い切り長いのがいいわ。
招待客がびっくりするくらい長くて豪華なレースにしてくださいね」



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