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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
「…僕は…」
…力なく目を落とす。
「…僕はもういいのです…」
…明日、清良は原嶋の花嫁になってしまう…。
もう、遅い…。
何もかも遅いのだ…。

「彼女には、誰よりも幸せな人生を歩んで欲しいのです。
彼女は今までとても苦労をしてきたひとで…ようやく幸せになれたのです。
僕がそのひとを愛すると、傷つけてしまうかも知れない…。
…僕は、それが何より怖い…。
そう…。
僕は自分に自信がない…臆病者です」
弱々しく呟いて、酒を飲み干した。

その手を貴和子がそっと握りしめる。
「…そうね、貴方は臆病かも知れないわね。
でも、それは貴方の優しさなのよ。
私は貴方の優しさが好き。
自分のことよりも、相手の気持ちを思いやる優しさが好きよ。
…でもね…」
貴和子の瞳がじっと郁未を見つめる。
「…女はね、好きなひとと一緒なら、どんなに傷ついても平気なのよ」
「…貴和子さん…」
貴和子のしなやかな白い指が、郁未の髪を優しく撫でる。
「…貴方の恋しいひとが貴方を本当に愛していたら、自分が傷つくことなんて恐れてはいないはずよ。
貴方を待っていると思うわ」
「…でも…」
…待っている…。
そうだろうか…。
清良は、原嶋との結婚を選んだのだ。
もう、自分のことなど忘れているのかも知れない…。

黙り込む郁未の手を、貴和子は柔らかく押し包んだ。
「…選ぶのは貴方よ。
貴方が自分で決めるの。
そうして、選んだ人生を悔いなく生きて…」
「…貴和子さ…」
その名を呼ぼうとした唇を、甘い吐息が包み込み…優しい感触を残して、静かに離れていった。

「…だって貴方は私の愛したひとだもの…」
貴和子はそうして、あの夜のように密やかに蠱惑的に…夜の花が咲き誇るかのように微笑ったのだ。


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