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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
…まんじりとしないまま、夜が明けた。

郁未は、まだ逡巡した気持ちのまま屋敷の大階段を降りようと、踊り場に立ち…階下の人影に目を見張った。

「…笙子さん…?
どうなさったのですか?」
今日は日曜日で、学院は休日だ。

笙子は美しい翡翠色の錦紗の着物を身につけていた。
漆黒の美しい黒髪に、その着物は良く映えていた。

近づいてくる郁未に微笑むと笙子は答えた。
「…清良さんに、お式の前にお祝いを申し上げに参りましたの」
「ああ…そうですか…」
清良と学院の関係は断たせた為、笙子も結婚式の出席は敢えて辞退していたのだ。
「お式に参列しないのでせめてお貌を拝見したくて…」
「…清良は…どうでしたか?」
「とてもお綺麗でしたわ。
…あんなにお綺麗な花嫁様は拝見したことがないほどに…」
「…そうですか…」
…やはり、清良は原嶋との結婚に前向きなのではないか…。
脚を止めた郁未に、笙子は自分から近づいた。
「…けれど、どこかお寂しそうでしたわ。
無理に笑っていらしたような…。
あのいつも屈託のない清良さんが…」

笙子の言葉に息を止める。
黙ったまま微動だにしない郁未を、笙子はじっと見上げた。
…そうして、凛とした声で言い放った。

「いつまでぐずぐずと迷っていらっしゃるの?
郁未さん。
このままだと貴方は永遠に清良さんを失うのですよ。
それでも構わないのですか?」
今まで聞いたことがないような強い口調であった。
「…笙子さん…」

「貴方の優しさは残酷で傲慢だわ。
貴方は清良さんの女心を考えたことはおありなの?
清良さんが傷付くかどうかは清良さん次第だわ。
もし傷付いたら、貴方が全力で支えて差し上げたら良いではありませんか。
それとも、そんな勇気もおありではないの?
だったら今すぐ諦められることですわね。
その方が、清良さんもお幸せになれるわ」

…普段大人しやかで、控えめな笙子の口から出た言葉とは思えなかった。
「…笙子さん…」

笙子はふっと目元の力を弱め、淋しげに微笑んだ。
「…郁未さんを拝見していると、かつての私を思い出すのですよ…。
…勇気を出せずに…そのまま諦めてしまったかつての私を…」





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