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僕の美しいひと
第7章 僕の美しいひと
鬼塚の無言の応援を背に、郁未は教会の礼拝堂に続く石畳みを走り出す。
教会の塔のベルが鳴る。
パイプオルガンの音色が微かに聞こえた。
…間に合わなかったのだろうか…。
焦る気持ちと共に礼拝堂の重厚な扉を押し開き、中に駆け込んだ。
厚く敷き詰められた紅い絨毯の端につんのめりそうになりながら転がり込む。

厳粛な空間の中、郁未の靴音が響き渡る。
横並びに並べられた参列者の椅子の後列に座っていた婉子が振り返ると郁未に気づき、ぎょっとしたように眼を丸くした。
「郁未さん⁈貴方、どうなさったの?ご招待されていらしたの?」
矢継ぎ早に質問を繰り出す婉子に首を振る。
「いいえ、お母様。詳しいお話は後で…」

…紅い絨毯の身廊の先に、二人はいた。
原嶋は白い婚礼の正装姿、清良は白く長いウェディングベールが紅い絨毯の上に広がり、その姿は見えなかった。
聖書台の前、神父による結婚の誓約がなされている最中であった。
朗々とした声が礼拝堂の中を響き渡る。
「…この結婚に正当な異議を唱える方はおられますか?
いらしたら、ご起立ください」
キリスト教徒のごく形式的な結婚の確認の文言である。
…しまった!式は既に始まっていたのか!

考える間も無く、郁未は大声で叫んでいた。
「ちょ、ちょっと待ってください!
い、異議を…異議を申し立てます!」

式の参列者たちが一斉に振り向き、ざわざわとした騒めきの波紋が広がった。
「い、嫌だわ、郁未さんたら…ど、どうなさったのよ…!」
婉子が慌てふためき郁未の腕を引っ張った。

…聖書台の前に跪いていたウェディングドレス姿の清良が振り返った。
ゆっくりと立ち上がり、郁未を見つめる。







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