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僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
…そのひと…高嶋貴和子に再会したのは、終戦の年の秋であった。

あの頃、郁未は酷く荒れていた。
日本は戦争に負けた。
軍隊はあっけなく解体させられた。
郁未が所属していた近衛師団は上層将校も特にGHQから諮問されることはなく、肩書きはただの民間人へと変わった。

神のように崇め、命に代えてお護りすると誓い仕えていた陛下が、いとも簡単に人間宣言をさせられてしまった。
郁未たち、一士官にはそれを阻止するべく何の力も持ってはいなかった。
自分たちの無力さを改めて思い知らされた。

…そして何より郁未を打ちのめしたのは、鬼塚の戦死の報であった。
鬼塚は敗戦が色濃く漂う戦況の中、激戦地の硫黄島に出征を命じられていた。
敗戦後、僅かなつてを辿り必死で確かめた情報は、硫黄島に赴いた兵士らの生存者ゼロの絶望的な結果であった。

…嘘だ…。
鬼塚くんが死んだなんて…絶対に嘘だ!

郁未は日本の敗戦よりショックを受けた。
塞ぎ込み食欲も無くし、部屋に引きこもった郁未を母は心配し、泣きながらなんとかしようと手を尽くした。

それが煩わしく、郁未は夜な夜な夜の街を彷徨うようになった。

毎晩、強くもない酒を煽り酔い潰れる。
飲んでも飲んでも酔いは来ず、哀しみと苦しみは胸に降り積もるばかりであった。

…その夜も、郁未は行きつけのバーでウォッカを煽っていた。
強いアルコールが胃の腑を焼く。
貌を顰め、けれどグラスをバーテンダーに差し出す。
「もう一杯…」
…その手を柔らかく掴むものがいた。

「…もうそのくらいになさった方がいいわ」
ややハスキーな静かな声…。
眼を瞬きながら見上げるそこに、意外なひとの貌を見出した。

「…貴和子さん…?なぜここに…?」
…そのひと、高嶋貴和子は昔と変わらぬ華やかな艶めいた笑みをその美しい貌に浮かべ郁未を見つめていた。
「…お久しぶりね、郁未さん。十年ぶりかしら…?」







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