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僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
高嶋貴和子は、郁未の母の年若の知人であった。
…初めて出会ったのは、郁未が幼年士官学校に入学する十五の春のことであった。
両親が開いた郁未の祝いの夜会に、貴和子は夫の高嶋子爵と共に招かれていたのだ。

当時、高嶋子爵の奥方、貴和子はちょっとした有名人であった。
先妻を病で亡くした子爵が親子ほど年の離れた貴和子を後添えに貰ったとニュースは社交界でも持ちきりであった。
「高嶋子爵様は赤坂の芸者を落籍したそうですわよ…」
「あら、私は吉原の芸者と伺いましたわ」
「…それでは芸者ではなく遊女ではありませんの?
だって、お綺麗だけれどお品がありませんもの…」
「子爵様はあんなお方を正妻にお迎えになるなんて…。
先妻の寛子様がお気の毒すぎるわ…」

扇の内側で囁かれる容赦ない噂話と冷笑…。
郁未は父の隣に立ち、広い客間の中でまるでひっそりと陰の主役かのように淡々と…けれど艶やかに佇む貴和子をそっと見つめていた。

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