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僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
開け放たれた一枚硝子窓の向こうから、優雅な皇帝円舞曲が流れてきた…。
光眩い舞踏室では、華やかなワルツの調べに乗せて多くの招待客がダンスを楽しんでいた。

「…ワ、ワルツ?ここで?」
郁未は眼を見張る。
「私とではお嫌?」
郁未は慌てて首を振る。
「い、いいえ。そうじゃなくて…。
…僕、踊れないんです…」
笑みを一層深くして、貴和子は郁未の手を取った。
「大丈夫よ。私が教えて差し上げるわ。
…さあ…」
しなやかに引き寄せられ、貴和子の胸に抱かれるように飛び込む。
「私の腰を抱いて…そう…しっかり引き寄せて…」
「…あ…」

小柄な郁未より、すらりとした貴和子は少し背が高い。
抱いた腰はとてもか細く華奢で、まるで少女のようであった。
…けれど、その胸は白く豊かに隆起し…柔らかく郁未の身体に押し当てられた。
貴和子の美しい首すじに掛けられた黒瑪瑙のネックレスがきらきらと光り輝いていた。
その眩しさと共に初めて異性の身体を生々しく感じ、心臓が煩いくらいに鼓動を立てる。
…芳しい香水の薫りは、母が付けているそれとは全く異なり、身体の奥底から甘い疼きを起こした。

貴和子はゆっくりと郁未をリードしながら、楽しげに笑った。
「あら、踊れるじゃない。郁未さん」
白く美しい手が郁未の手を柔らかく握る。
おずおずと答える。
「…学校で少し習いました…。でも、下手だから…恥ずかしくて誰とも踊ったことはないんです…。
…僕と踊っても、女の子はきっと楽しめないだろうし…」
温かな手がきゅっと握り返される。
「下手じゃないわ。…郁未さんは相手のひとを大切にして丁寧に踊られる方ね。
…貴方はとてもお優しい方なのよ」
「…え?」
貴和子の真摯な眼差しが郁未を見つめていた。
…今までのふわりと艶めいた捉えどころのない瞳とは全く異なるものだった。
「お優しいから色々と悩んでしまわれるのよ。
…分かるわ。…私の弟がそうだった…」
「…弟さん…?」
美しい黒い瞳に、ふっと一瞬哀しげな色が差した。



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