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僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
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…十年の月日が、夢のように蘇った。
貴和子は少しも変わってはいなかった。
…美しく艶めいて…蠱惑的な眼差しは相変わらずだ。
「…貴和子さん。…お久しぶりです…」
ぼんやりと酔いが回った瞳に、貴和子はぞっとするほど凄絶に美しく映った。
…貴和子は艶やかな黒髪を緩く結い上げ、胸許が深く切れ込み袖の部分がシースルーの黒いドレスを着ていた。
人妻にしては、余りに扇情的な服装だ。
郁未の隣のスツールに腰掛け、シャンパンを注文する。
柔らかな微笑みを湛え、彼女は眼を細めた。
「…郁未さんはすっかり大人になられたわね。
背も伸びて…あの頃は私より小柄でいらしたわ」
…可愛かった…。
そう吐息のように呟いた。
郁未は苦笑いする。
「…あの頃は…まだ子どもでしたから…。
…あの…貴和子さんは…」
士官学校に入学してからは、社交界の噂話も人々の消息も一切耳にしてはいなかった。
近衛師団に入ってからは尚更だ。
…けれど、貴和子のことだけは気に掛かっていた。
…初めてワルツを踊ってくれた年上の美しい人妻…。
…そして、初めてのキス…。
すべては甘く切ない想い出の中だ…。
「…主人は戦時中に亡くなったわ。
私は未亡人よ…」
…だから黒い服装なのか…。
「…それは…ご愁傷様でした…」
白く華奢な手が優雅にフルートグラスを掴み、泡沫の泡のように静かに弾けるシャンパンを飲み干す。
濃い紅薔薇色の唇が艶やかに濡れた。
「…ご心配なさらないで。私はメリーウィドウよ。
主人の遺産で毎日面白可笑しく過ごしているわ。
私の元には、私の美貌とお金目当ての若いジゴロがたくさん集まるの」
…偽悪的な口調が引っかかる。
郁未は思わず眉を顰めた。
「…貴和子さんにそんな言葉は似合いませんよ。
…だって貴女は…自信を失くしていた僕を励ましてくれた…」
…初めてのワルツ…初めてのキス…。
優しい言葉…。
美しく、切ない想い出だ…。
貴和子は弾けたように笑いだした。
暫く笑い続け、しみじみした表情で郁未を見つめた。
「郁未さんは変わらないわね。
…今もとても綺麗でご清潔…。
少しも穢れてはいらっしゃらないわ…」
爪先が鮮やかな紅色に染められた指が、そっと郁未の頬に触れる。
貴和子は少しも変わってはいなかった。
…美しく艶めいて…蠱惑的な眼差しは相変わらずだ。
「…貴和子さん。…お久しぶりです…」
ぼんやりと酔いが回った瞳に、貴和子はぞっとするほど凄絶に美しく映った。
…貴和子は艶やかな黒髪を緩く結い上げ、胸許が深く切れ込み袖の部分がシースルーの黒いドレスを着ていた。
人妻にしては、余りに扇情的な服装だ。
郁未の隣のスツールに腰掛け、シャンパンを注文する。
柔らかな微笑みを湛え、彼女は眼を細めた。
「…郁未さんはすっかり大人になられたわね。
背も伸びて…あの頃は私より小柄でいらしたわ」
…可愛かった…。
そう吐息のように呟いた。
郁未は苦笑いする。
「…あの頃は…まだ子どもでしたから…。
…あの…貴和子さんは…」
士官学校に入学してからは、社交界の噂話も人々の消息も一切耳にしてはいなかった。
近衛師団に入ってからは尚更だ。
…けれど、貴和子のことだけは気に掛かっていた。
…初めてワルツを踊ってくれた年上の美しい人妻…。
…そして、初めてのキス…。
すべては甘く切ない想い出の中だ…。
「…主人は戦時中に亡くなったわ。
私は未亡人よ…」
…だから黒い服装なのか…。
「…それは…ご愁傷様でした…」
白く華奢な手が優雅にフルートグラスを掴み、泡沫の泡のように静かに弾けるシャンパンを飲み干す。
濃い紅薔薇色の唇が艶やかに濡れた。
「…ご心配なさらないで。私はメリーウィドウよ。
主人の遺産で毎日面白可笑しく過ごしているわ。
私の元には、私の美貌とお金目当ての若いジゴロがたくさん集まるの」
…偽悪的な口調が引っかかる。
郁未は思わず眉を顰めた。
「…貴和子さんにそんな言葉は似合いませんよ。
…だって貴女は…自信を失くしていた僕を励ましてくれた…」
…初めてのワルツ…初めてのキス…。
優しい言葉…。
美しく、切ない想い出だ…。
貴和子は弾けたように笑いだした。
暫く笑い続け、しみじみした表情で郁未を見つめた。
「郁未さんは変わらないわね。
…今もとても綺麗でご清潔…。
少しも穢れてはいらっしゃらないわ…」
爪先が鮮やかな紅色に染められた指が、そっと郁未の頬に触れる。
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