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僕の美しいひと
第2章 夜の聖母
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「…貴方は変わらないわね。
…今も美しく無垢な少年のままだわ。
きっと身も心も…」
郁未は苦しげにそっとその手を外した。
そしてやや手荒い動作で、ウォッカの杯を煽る。
「やめてください。…貴女に…何が分かるのですか」
…分かりはしない。
青春を捧げたものを根こそぎ奪われ、貶められた気持ちなど…。
…いや、正義だと思っていたものが、悪であった気持ちなど…。
…自分が突き進んで来た道が、間接的には多くの国民の命を奪い、傷つけていったという事実を…。
…そして、何より…誰よりも愛したひとを亡くした哀しみを…。
郁未は唇を噛み締め、俯いた。
温かな優しい手が、郁未の髪を撫でた。
…昔のように、慈みに満ちた手であった。
「…郁未さん、貴方はどなたか大切な方を亡くされたのね…?」
咄嗟に振り返る。
「どうしてそれを?」
貴和子の黒い瞳に、息を呑むような哀しみの光が宿っていた。
「…分かるわ。…だって、私も同じですもの…」
…そうだ。貴和子は弟を亡くしたと言っていた。
自分が意に染まぬ結婚をしてまでも、助けたかった最愛の弟を…。
カウンターに置かれた郁未の手に、貴和子の白く美しい手が重なる。
「…私たちは、同じよ…」
「…貴和子さん…」
…郁未の凍えた心に、貴和子の静かな哀しみと慈しみと温もりがひたひたと染み入る。
郁未は、貴和子の手を強く握りしめた。
…もう、郁未の方が彼女の手を包み込めるほどに大きかった…。
「…今夜は…貴女と一緒にいたいです」
不器用で直裁な言葉に、貴和子は潤んだ瞳で優しく頷いた。
「…私もよ…郁未さん…」
…今も美しく無垢な少年のままだわ。
きっと身も心も…」
郁未は苦しげにそっとその手を外した。
そしてやや手荒い動作で、ウォッカの杯を煽る。
「やめてください。…貴女に…何が分かるのですか」
…分かりはしない。
青春を捧げたものを根こそぎ奪われ、貶められた気持ちなど…。
…いや、正義だと思っていたものが、悪であった気持ちなど…。
…自分が突き進んで来た道が、間接的には多くの国民の命を奪い、傷つけていったという事実を…。
…そして、何より…誰よりも愛したひとを亡くした哀しみを…。
郁未は唇を噛み締め、俯いた。
温かな優しい手が、郁未の髪を撫でた。
…昔のように、慈みに満ちた手であった。
「…郁未さん、貴方はどなたか大切な方を亡くされたのね…?」
咄嗟に振り返る。
「どうしてそれを?」
貴和子の黒い瞳に、息を呑むような哀しみの光が宿っていた。
「…分かるわ。…だって、私も同じですもの…」
…そうだ。貴和子は弟を亡くしたと言っていた。
自分が意に染まぬ結婚をしてまでも、助けたかった最愛の弟を…。
カウンターに置かれた郁未の手に、貴和子の白く美しい手が重なる。
「…私たちは、同じよ…」
「…貴和子さん…」
…郁未の凍えた心に、貴和子の静かな哀しみと慈しみと温もりがひたひたと染み入る。
郁未は、貴和子の手を強く握りしめた。
…もう、郁未の方が彼女の手を包み込めるほどに大きかった…。
「…今夜は…貴女と一緒にいたいです」
不器用で直裁な言葉に、貴和子は潤んだ瞳で優しく頷いた。
「…私もよ…郁未さん…」
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