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僕の美しいひと
第3章 じゃじゃ馬ならし
今夜は兄のところに泊まるという婉子を車寄せまで見送り、寄宿舎に戻る。
そろそろ生徒たちの就寝の時間だった。
彼らに具合が悪い子はいないか、きちんと就寝の準備はできているかなども細かくチェックする。

階上の男子寮の点呼に寮母と共に立ち会い、階段を降りる。
廊下の向こうから、ランプを手にした白い裾の長い夜着を着た一人の少女が現れた。
「…清良…」
清良には最上級生として、女子達の就寝点呼の役を委ねていた。
それが終わり報告に来たのだろう。

ランプに照らされたその美貌は、思わず立ち止まるほどに幻想的に美しかった。
思わず見惚れていたが昼間の出来事を思い出し、郁未は微笑みながら歩み寄る。
「清良。今日は君が淹れてくれたお茶はとても美味しかったよ。
所作もとても綺麗で申し分なかった。
母が感心していたよ」

ちらりと郁未を見上げ、無表情に眼を伏せる。
「…そう」
…褒めているのに浮かない貌だ。
どことなく表情も硬い。
「どうしたの?何だか機嫌が悪いね」
「そんなことない」
無愛想に答えると、さっさと歩き出す。
やれやれ…と苦笑しながらその華奢な背中を追う。
「どうしたの。何かあった?
ちゃんと言ってくれないと、分からないよ?」

その背中がぴたりと止まった。
つっけんどんな声が薄暗い廊下に響いた。
「…見合い…するんだ…」
「…え?」
「見合い、するんだろう?
それであんたのお母さんが来たんだろう?」
…ああ…とほっとして郁未は笑った。
「なんだ。そのことか。…ああ、まあね」
勢いよく清良が振り返る。
「まあね…て…。本当にするの?」
清良の形の良い眉がむっとしたように跳ね上がった。


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