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僕の美しいひと
第5章 新たなる扉
清良が学院を卒業する日取りが決まった。
一カ月のちの七月である。

「…一カ月であの蓮っ葉な言葉遣いが直るかねえ…」
鬼塚が疑い深そうに肩を竦めた。
「まあ、全部は無理かもしれないけれど…」
郁未は苦笑した。
「…けれど、伊津子さんが早く清良と暮らしたいと強く願っておられてね…。
もう1日も離れたくないそうだよ。
侯爵もそうだ。
…無理もない。十七年間会えなかったのだから…」

しみじみと呟く郁未に、鬼塚は改まったように口を開いた。
「…清良があちらの家に行ったら、お前はどうするつもりだ?」
「え?」
訝しげに眉を寄せる郁未に、淡々と告げる。
「清良は侯爵令嬢としての新しい人生が始まる。
もうここにはおいそれとは戻って来られないだろう。
…お前、その前に清良に言わなくていいのか?」
「何を?」
きょとんとした表情の郁未に、呆れたように眼鏡越しの鋭い眼を眇めた。
「好きだと胸のうちを告げなくていいのかと言っているんだよ」

郁未は呆気に取られ、笑い出した。
「僕が清良を?まさか!
…だって清良は生徒だよ。好きになる訳がない…」
鬼塚はゆっくりと立ち上がった。
郁未に近づきながら、語りかける。
「そうかな。俺は、お前が清良が来てから明らかに変わったと思うがね。
…清良が来てから、お前はとても生き生きしていた。
あの跳ねっ返りにすっかり心を奪われているように見えた。
あの子の幸せの為に必死になっていた。
…だから清良の為に梅さんを探し出して来たんじゃないのか?」

郁未は苦しげに、首を振った。
「仮にそうだとして…僕に何が出来る?
…清良は貴族の令嬢だ。こことは無縁で生きるべきだ。
僕たちと関わっていた過去は消さなくてはならない」
「郁未!」

郁未は無表情で立ち上がり、鬼塚に背を向けた。
「…僕は高遠侯爵に提案した。
清良がここにいたことは伏せた方が良いと…。
過去の窃盗の事実がどこから漏れるか分からない。
…清良は攫われたのち今まで地方の豪農の家で育てられていて、漸く見つかったことにしようと話し合ったんだ」
「お前はそれでいいのか⁈」
鬼塚の険しい声が飛ぶ。
郁未は真っ直ぐ前を向き、答えた。
「清良の幸せの為だ。
…清良の過去は僕が全て消す。
…ここでの生活も全て…何もかも…。
その方が、彼女は幸せになれるんだ」

郁未は静かにドアを開き、部屋を後にした。





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