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僕の美しいひと
第5章 新たなる扉
…静かに…夏のしっとりした濃密な夜気を包み込むように、ヨハン・シュトラウスが流れ始める…。

「…さあ、おいで…清良…」
吸い寄せられるように、差し出された手を取る。
甘く切ないワルツの旋律が、二人を優しく包み込む。

郁未は温かな眼差しで、清良を見下ろす。
「…君をこの学院に引き取った時は、まさかこんなに美しく優雅な淑女になるなんて、想像もできなかったよ」
清良は思わず頬を膨らませる。
「どうせあたしは山だしのじゃじゃ馬ですよ〜!」

陽気に笑いながら、そっと優しく腰を引き寄せる。
「…ああ、そうだな。
こんな跳ねっ返りの女の子は初めてだった。
親戚にも、社交界にも…一人もいなかったからね…。
…けれど…」

…脚を止めて、その薔薇色に染まった美しい頬にそっと触れる。
「…僕は、その跳ねっ返りも好もしかったんだよ。
…自分でも…意外なほどにね…」
清良の瞳が信じられないように見開かれる。
「…嵯峨…先生…」

お互いの眼差しが、見えない糸に引き寄せられるように絡まり合い、静かに距離を縮める。

…清良の艶めいた珊瑚色の口唇が震えるように開かれる。
…甘い吐息…。
その蜜のような甘やかな魔法に絡めとられたかのように、郁未は清良の顎を引き寄せ…唇を重ねようとした…。

…けれどその刹那、はっと我に返りすぐさま清良の身体から手を離した。
「済まない…。
…僕は、どうかしていた…」
苦しげに貌を背ける郁未に、清良は堪えきれぬように全力でしがみついた。

「どうして謝るの?
あたし…あたし…嵯峨先生が好き…大好き…!」

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