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フリマアプリの恋人
第2章 鈴蘭のささやき
柊司にはこれまで何人か恋人がいた。
皆、美しく魅力的な女性ばかりだった。
けれど、そのどの女性とも長くは続かなかった。
気がつくと皆、柊司から離れていくのだった。

柊司は恋人たちに誠実に接してきたつもりだし、願いごとや我儘はほぼ叶えてきたつもりだった。
セックスの相性も悪くはなかったはずだ。
独りよがりなセックスをしたり、乱暴な扱いをしたことももちろんない。
ひたすら優しく…自分の快楽より寧ろ、恋人の快楽を優先し、奉仕に近い行為を施した筈だった。

付き合い始めもすべて、女性達が柊司に告白をし、交際が始まった。
最初は女性達は、柊司の恋人だということが大層誇らしい様子だった。
柊司の人目を惹く整った容姿や洗練された物腰、紳士的な振る舞いや優しさ知的さ…何より有名私大の准教授という肩書きは、魅力的に映ったに違いない。
しかし、彼女たちは皆、いつのまにか柊司に落胆したかのように静かに別れを告げて去ってゆくのだった。

柊司は女性に関しては、来るものは拒まず、去る者は追わずのスタンスである。
…引き止めるほどの執着を感じる女性がいなかったこともある。
去られても、寂しさは感じなかった。
柊司にとって恋愛は、その場凌ぎの身体を交わす社交のようなものだった。
共に過ごす時、お互いがスムーズに快適に感じられたらそれで良かった。
結婚など微塵も考えたことはなかった。
だから、恋人に執着はなかった。

一番長く続いたのは大学院時代の同級生だ。
意志が強く賢く自立した美しい彼女を、柊司は好きだった。
愛しているとすら思っていた。
しかし、彼女も自ら別れを切り出した。

今、ロンドン大学で教鞭を執っているその元恋人は、なぜ自分と別れるのかと尋ねる柊司に肩を竦めた。
「…貴方が本当に私を需めていないような気がするからよ。
貴方はいつも私を見ているようで見てはいない。
誰か違う…そうね…遠くの誰かを見ているような気がするの。
…そんなひととずっと一緒にはいられないわ」



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