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歳下の悪魔
第2章  天使と悪魔



 「優華先輩、試験管、出来ました。潰すのも、終わってます」
 和真の声を聞き、我に返る。
 自分の作業が、全く進んでいなかった。彼のせいで、仕事にも影響が出てくる。
「次の食品も、16本作って。一列開けて、機械に差して。手袋を変えてね」
「はいっ」
 手袋は、使い捨ての物。食品同士を、少しでも混ぜるわけにはいかない。
 和真はまた黙々と、試験管に移す作業をしている。
 守の方の試験管は、隣の機械に既に二種類入っていた。ケースの蓋には、食品名が書いた付箋が貼ってある。
 和真にもそのことを告げ、また席に戻った。
 自分の仕事をと思っても、つい、昨日のことが蘇ってしまう。
「手、大丈夫―?」
 課長へデータを出しに行く途中の美月が、パソコンを覗き込んでくる。
「ゆっくりでいいよー。手伝うしー」
「ありがとう。大丈夫」
「優華先輩。出来ましたー」
 仕方なく和真の所へ行き、機械の操作方法を教えた。飲み込みは良く、操作を終えて蓋を閉める。
「後は、一時間くらいかかるから。デスクでの仕事をしてて」
「今晩行く……」
 低い声で言われた。
「はい。分かりました。デスク仕事にも、早く慣れます」
 今度は、明るくて大きな声。
 悪魔と天使を、いっぺんに出した。
 何事もなかったように、和真は自分のデスクへ戻っていく。
 和真は、今晩も来る。
 合鍵を持っているから、私には逃げ場がない。それに一度逃げても、会社に来れば会ってしまう。
 32歳で彼と別れたばかりなのを、歓迎会の席では勇気付けてくれた。あの晩は、それに付け込んでセックスしたんだろう。
 でも、終わったことは仕方ない。
 誰にも言えない秘密。それを和真と、共用してしまった。
 普通にセックスする方が、あんな辱めよりずっとマシ。
「優華―。手伝うねー」
 美月が来て、横に置いてあった未処理の書類を半分持って行く。
「ありがとう」
 今日は、美月に甘えておこう。
 私は、手首を痛めている。そのせいで、作業が進まない。数日ならそれで通せるが、心の痛みはもっと続くだろう。それに、縛られた跡は数日じゃ消えない。
 でも今は、悩む時間じゃない。
 私はパソコンに集中し、出来る限りのデータを作っていった。


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