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実業家お嬢様と鈍感従者
第11章 仮面舞踏会

唯一の心の拠り所にしようとした仕事も、経営者として迫られる判断に自信が持てなくなった。

ずるずると時間ばかりが過ぎ、最後はやっつけにも近い賭けのように決断をしてしまう。

そうなるともう、生きがいさえ感じていた仕事も、苦痛以外の何物でもなかった。

自分の会社の社員や、信頼して資産を預けてくれている投資家、領地で家具を作ってくれる領民達の数を思うと、負担が増し重圧を感じた。

睡眠を削ってだらだらと無駄な時間を過ごし、朦朧とした頭でまた決断が出来ない。

そうずぶずぶと悪循環に陥っているのに、自分ではもうどうしようも無かった。

近侍兼秘書として手を差し伸べてくれるヘンリーを、冷酷にあしらい続けている。

ただの甘えだと言うのは、自分が一番分かっていた。

もしかしたら時間が解決してくれるのかもとさえ思った。

『契約』の期限まで三ヶ月を切っていた。



そして、私は逃げた――。



父はヘンリーを自分の近侍にしたいと思っていたはず。

そう思っていたから高い学費を出して彼を学校に通わせてくれた。

けれどアンジェラが我が儘を言って、未来の女伯爵の近侍として、ヘンリーを自分に仕えさせた。

表向きは「私の頭に付いてこられるのは彼しかいないから、彼以外はいらない」 となっている。

勿論それに嘘はない。

でも本当は「ヘンリーを私の傍に置いておきたい」ただ、それだけだった。

だが、ヘンリーの気持ちはどうだったのだろう。

自分は全く彼の気持ちを考えなかった。

彼からしてみれば、アンジェラの近侍では無く父の筆頭近侍になれば、彼の父の次の地位に就けたというのに。

(何とも思っていない私に仕え続けるのは、彼にとって苦痛なだけに違いない――)

「もう、彼を解放してあげなくちゃ……」

アンジェラはそう独り言ちると、父の私室の扉をノックした。





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