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第3章 三日月

敦子は身長百六十七センチを軽く超える長身で、スポーツをしているのだろう、綺麗に日焼けした引き締まった身体を黒のパンツスーツで覆っている。

面長の顔に良く似合うショートカットの髪。生命力に満ち溢れたような切れ長の大きな瞳と大きめの唇は均整がとれており、美人の部類に入るだろう。

月哉と並ぶと正に二人は長身の、美男美女カップルとして釣り合って見える。


『運命の出会いかもしれませんな』


ふと視線を感じそちらを見ると、木村の優しく細められた瞳と目が会う。

雅もそれに習って、目だけで笑って返した。

(――木村先生、今……私の事を見ていたわ)

後藤が入れてくれたアッサムティーの茶器を両手で取り上げる。

雅は落ち着こうと香りを胸一杯吸い込んでから、それを口に含んだ。

(心を赦しすぎては――いけない。木村先生は他人だ。木村先生だって充分、私の邪魔をする存在になり得るのだ)    

雅は微笑を絶やさず、兄たちの話に耳を傾けた。

私室に戻ると、雅はすぐに書斎のパソコンを立ち上げる。

木村の事務所であるユナイテッド弁護士法人のサイトを開くと、アソシエイトの敦子の経歴が見つかった。

(ふうん、エリートなのね。しかしそんなものは私には関係ない。お兄様に釣り合うかどうかだけが重要事項なのだから――)

雅はパタパタと音を立ててキーボードを叩いていたが、不意にその手が止まる。
いえ、違うわ……と雅は自分の考えに俯き、自嘲した。

(どんなに素敵な人でも――嫌だ。誰にもお兄様を取られたくない)

携帯電話を取り出し、雅は何でも屋Cに敦子の素行調査をメールで依頼する。

全ての履歴を削除すると、袖机の引き出しの鍵を空け、日記を取り出した。


高嶋敦子は危険。庶民だが頭がいい。

お兄様は頭のいい、精神的に自立した女性に弱い傾向がある。

なにか手を考えなければ――。


散文的に書き込むと、雅は急に自分が馬鹿らしく思えて万年筆を放った。

精神的に自立した女性。

(それがお兄様の女性の好みだとしたら、私なんて全くの圏外ではないか――!)

兄がいないと精神的健康はおろか、身体的健康にも直ぐ支障をきたしてしまう。

独りで立つことすら出来ていない。

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