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黄昏異変 肉欲の奈落
第1章 女医 早苗
 早苗は一度話を切ると、固唾を呑んで聞き入る浩二の顔に伺うような目でチラッと視線を送った。

 「わたし、そっと寝室のドアに耳を当ててしばらく聞き入りました。その泣き声はすすり泣いたかと思うと呻き、高くなったり低くなったり、糸を引くように長く伸びたかと思うと短く途切れて何時までも…」

 「エエッ」

 「それが何を意味するか、中学生の私でもすぐ分かりました」

 早苗は驚いて、外に飛び出し、駅のそばの喫茶店でずっと通りを見ていたという。
 そこに、人目を憚るように少し離れて、背広姿の男を追って母の幸子が。
 男は改札の前まで来るとチラッと母を振り返り、母はそっと会釈して家に帰っていったというのだ。

 「お母さんにそんなことが・・・、信じられないなあ」
 「母が不倫をしている・・。わたし、怖くなりました。父を裏切った母より、母の裏切りがばれることの方が恐ろしかったんです」

 「なるほど。君の気持はよく分かるよ」

 「それまでは両親のことなどまったく無頓着だったのに、それからは両親の様子を伺うようになりました。あるとき、両親の留守に、吸い込まれるように両親の寝室に入って部屋の様子を探りました。その時、ビデオデッキに入れたままのテープがあることに気づき、何気なくスイッチを入れたんです。そこに、恐ろしい光景が写し出されました」

 「恐ろしい光景・・・」
 「・・・・・・・・・」
 「君のご両親の秘密だ。無理に話すことはない」

 言い淀んだ早苗の様子に浩二が気遣った。
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