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黄昏異変 肉欲の奈落
第1章 女医 早苗
 「乾さん、ありがとう。ご一緒していただいて本当に良かった」
 「そうだね。一人は辛すぎるよね」

 早苗の涙が乾いた頃、船は桟橋に戻っていた。

 「乾さん、今日のお礼に夕食を準備しますから来ていただけます」
 
 帰りの電車の中で早苗は浩二を夕食に招いた。

 「遠慮なく伺います」
 「よかった」
 
 早苗の顔に笑みがこぼれた。
  
 帰宅して普段着に着替えた浩二はリリーと散歩に出た。
 一人になった途端、浩二は早苗との会話が気になり出した。
 浩二の頭の中には、相反する二つの思いが渦巻いていた。

 (ウソだろう・・。いや本当かもしれない)

 美貌の女医がいきなり、あなたが好きだと名乗り出たのだ。
 男なら誰しも人生の黄昏を前に思う。
 このまま老いるのか、一度でいい、あんな美しい女を抱いてみたい。死ぬ前にもう一度若い女の肌を味わいたい。
 その果せぬ夢が、実現するかも知れないのだ。
 目の前に、棚から牡丹餅が転がり落ちたようなもの。
 だが、何かの間違いで、捕らぬ狸の・・・、糠喜びだったら。
 浩二は漠然とそんな思いに駆られながら早苗の家に向かった。
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