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復讐の味は甘い果実に似て
第6章 絶望へのいざない ~ひかるの告白~
「恵梨が前に先輩のことを話してたんです。先輩が指導教授の仕事を手伝って婚約の資金を貯めてるって。普通は結婚とかって就職してお金を貯めてから、って考えるのに、先輩はよっぽど恵梨のことが好きなんだなあ、って思ってました。」
「……まあ、そのせいで恵梨に寂しい思いをさせて浮気されたわけだから、結果的には、僕の独りよがりだった、ってことなんだけどね……。」
 そういうと、先輩はがっくりと肩を落とした。

 違う。
 先輩のやったことは絶対、独りよがりなんかじゃない。
 先輩にそんな惨めな思いをさせたのは、恵梨じゃないか。

 これだけ懸命に、誰かの事を想った人が、何故、その当人に苦しめられる?
 これほど誠実な人が、何故、こんな悪魔のような復讐を考えるほどに、傷つかなきゃいけない?
 
 思わず、あたしは先輩を背中越しに抱きしめた。
 あたしの体に巻いたタオルが床に落ち、先輩の体にあたしの胸が直に触れたが、あたしはもう、そんなことを気にしてはいなかった。

「あたしは恵梨のやったことが許せません。あたしや明日香をだましたことも許せないですけど、それ以上に、あなたにしたことが許せません。」
 抱きしめた先輩の肩が少し震え、あたしの体に、先輩の嗚咽が伝わってきた。
 先輩は静かに、自分の想いを噛みしめるように、涙をこぼした。

 多分、この人は、自分の絶望も苦しみも、ただ、自分の心の中だけに収めて、ひたすらに耐えてきたんだろう。
 おそらくは、両親の離婚というときからずっと。

 あたしは先輩の静かな嗚咽が落ち着くのを待って、話し始めた。
「……多分、あたし、恵梨がうらやましかったんだと思います。あたしも、誰かにこんなに一途に想われてみたい、って。恵梨が先輩の話をするたび……そう思ってました。」
 それは間違いなく、あたしの本心だった。
 
 あたしは先輩をさらに強く抱きしめた。
 そして、あたしは先輩の背中に頬を寄せ、今夜、自分が言うべき最後の言葉を口にした。

「……今夜だけ……今夜だけでいいです。何もかも忘れて、あたしのことを想ってください。そして、あたしを……女にしてください。」

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