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復讐の味は甘い果実に似て
第1章 終わりと始まり
 恵梨の部屋を出て、住宅街の中を息が切れるまで走ったあと、僕は河川敷へ出た。
 河川敷の斜面のまえで立ち止まって呼吸を整えようとすると、頭の中に恵梨の喘ぎ声とベッドのきしむ音が蘇り、僕は激しい吐き気に襲われた。
 14歳の時から、ずっと僕を責め苛んできたどす黒い怪物が僕の胃のなかで暴れまわり、あらゆるものを吐き戻させようとするかのようだった。

 やがて、懇親会の料理やら、酒やら、胃の中のありとあらゆるものを吐きつくしてしまうと、ようやく僕に感情らしきものが戻ってきた。僕は握りしめた花束を、怒りに任せて何度も何度も地面に叩きつけた。

 これで恵梨と一緒にいられると思った日に、何で恵梨が僕を裏切るんだよ!
 浮気だけはしないでくれ、って言った僕との約束は何だったんだよ!
 僕が誰よりもそういうことを嫌いなことを知っているくせに!
 
 僕は泣きながら、喘ぐように呪詛の声をあげて、ひたすら花束を地面に叩きつけた。
 そして茎だけになった哀れな花束を、僕は自分が吐き散らかした吐瀉物の上に捨てた。
 
 ……そうだ。僕の彼女への想いなんか、このゲロと何も変わりやしなかったんだ。
 僕は最後に、そう吐き捨てると、河川敷を駅の方に向けて歩き始めた。

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