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復讐の味は甘い果実に似て
第3章 復讐への階段 ~明日香の告白~
 わたしは、テーブルの上に残された5万円の封筒と、産婦人科の資料を見ながら、大きくため息をついた。いったい、どうすればいいのだろう。

 まともに考えるなら、先輩の研究室に出向いて、この封筒を叩き返し、こんなことに協力できません、と言えば済むことだった。
 それですべては終わるはずだ。

 だが、それでは、わたし自身が納得できない。
 『走れメロス』では、メロスはちゃんと帰ってきたが、わたしやひかるにとってのメロスである恵梨は、身代わりのわたしたちをあっさりと見捨ててしまったのだ。
 セリヌンティウスであるわたしが、見苦しく言い訳をして、処刑台から逃げれば、恵梨と同じレベルの嘘つきになってしまう。
 できもしない約束をした挙句、いざとなれば逃げる最低の人間、という話でしかない。
 
 それに、わたしは嫌がる先輩に、恵梨の保身のための作り話を無理やり聞かせたのだ。
 結果的に、すでにボロボロになっている先輩にとどめを刺すようなことをしてしまった。
 人の傷を抉るだけ抉っておいて、都合が悪くなれば素知らぬ顔でさっさと逃げる、などということが許されるのだろうか。

 もう、わたしのなかでは、どれほど考えても結論は出そうになかった。

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