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銀行員 有田雄一、私は「女」で出世します
第1章 スナックのママ
≪接待の夜≫

7月、じっとしていても暑い。東京都文京区白山、時刻は午後11時を過ぎているが、汗ばんでくる。人通りの少なくなったバス通りには黒塗りのハイヤーが停まっていた。

「運転手さん、今、来ますから」
「分かりました」

有田(ありた)雄一(ゆういち)はハイヤーの運転手に声をかけた。
それとほぼ同時、目の前のビルの一角にある小さなスナックのドアが開き、今夜の大事なお客様、吉田社長と、有田の上司、榎本課長が出てきた。

「社長、お疲れ様でした」
「いやあ、今夜はすっかりご馳走になっちゃって」
「何を仰います。二次会までお付き合い頂き、こちらの方こそ、お礼申し上げなくてはいけません。さあ、お車が待っています」
「何から何まで、迷惑かけちゃうね」

そして、吉田社長がハイヤーの後部座席に乗り込むと、榎本課長と有田は、「お気をつけてお帰り下さい」と頭を下げて見送った。

「ふぅ……」

二人は同時にため息をついた。

「ご苦労さん」
「いえ、私は課長のご指示に従っただけですから」
「ははは、そういうことの積み重ねが、後々、役に立つんだ」

大手銀行の一つ、東西銀行に勤める有田は上司の榎本課長に付き従い、取引先の社長をお連れし、東京ドームでの野球観戦、続いて、ここ白山のスナックでおもてなしをしていた。

「おい、ママ、色っぽいだろう?」
「ええ、そそられますね」
「そうだろう。だから、社長を連れて来たんだよ」
「そうだったんですか」
「当たり前だ。さっき、携帯の電話番号を聞いていただろう?」
「ええ、聞いてました。社長がご機嫌な訳ですね」
「そういうこと。それじゃあ、俺も帰るから、支払いの方、頼んだぞ」
「はい。了解です」

課長は通りかかったタクシーを捕まえて、帰っていった。
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