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レディー・マスケティアーズ
第13章 エピローグ ――十月の終わり
「いつから気づいていたの」
「気づいてなどいません。ただ、調べるうちに、何かがおかしいと思うようになったんです」
「何かが?」
「ええ。芸能プロダクションを倒産させた木庭茂を役員に招くなど、聡明な前社長のされることとも思えません。何か理由がない限り……。そして、その理由が木庭敦子だった。彼女の秘めたる力の前に、塚越謙一郎氏も屈したのでしょう。だから、あなたは守らなくてはと焦った。あの会社を……。亡くなったご主人の名誉を……。そうですね?」
 相手は何も答えなかった。塚越涼子から手渡された封筒をポケットにしまうと、松永はベンチから立ち上がった。
「明細書は後日郵送します。差額があれば、その折に返却しますので」
「返却だなんて、これほど働いてくださったのに」
「いえ。これは、わたしどもの社の決まりです」
 松永がきっぱりと言った。裏社会にいる自分たちには、自分たちが定めたルールがある。それを見失えば、自分たちはただのならず者になってしまうのだ。
「また、お会いできるかしら」
 座ったままの塚越涼子が、松永を見上げるようにして言った。松永が首を振る。
「そんな機会が来ないことを祈ります。あなたが、わたしたちを必要とするような不幸に巻き込まれないことを」
 一陣の風が舞った。
 歩き始めた松永は、背中で小さくすすり泣くような声を聞いた気がした。振り返れば確かめることができたかもしれない。しかし、松永は振り返らなかった。


                                       ――了
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