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独占欲に捕らわれて
第5章 返済
ステーキを食べ終えた千聖は、スイーツを頼もうかと再びメニュー表を開いた。
「うーん、あれでけっこうおなか膨れたし、食べるにしてもアイスクリームとかかな……」
千聖が小さめのスイーツを見て唸っていると、誰かが向かいの席に座る気配がした。驚いて顔を上げると、にこやかな紅玲が座っている。

「おかえり……」
「ただいま」
驚きながら言う千聖に、紅玲は笑顔で返事をするとアタッシェケースを開けて、完済証明書を彼女の前に置いた。
「約束通り、借金は返してきたよ」
「ありがとう……」
千聖は完済証明書を受け取るが、浮かない顔でいる。

「どうしたの?」
「またあの家に行かないといけないと思うと、ちょっとね……」
千聖は頭を抱え、ため息をついた。
「なにも直接会うことないんじゃない?」
「え?」
「郵便受けに入れておけば、会う必要もなくなるでしょ? それか、手紙として出しちゃうとか」
紅玲はアタッシェケースから封筒を出すと、千聖に差し出した。

「ありがとう。……その中、なんでも入ってるのね」
「まぁね」
紅玲は得意げにアタッシェケースを、指先で叩いた。
千聖はさっそく封筒に完済証明書を入れる。

「ところでチサちゃん、オレは君に怒っているんだよ」
「え?」
顔を上げれば、紅玲はムスッとした顔をしている。
「私、なにかした?」
「してほしいことをしてくれない……」
「なんなのよ?」
なかなか言わない紅玲に、千聖はイラついてくる。
「名前を呼んでくれない……」
唇を尖らせる紅玲に、千聖は思わず吹き出した。

「はいはい、紅玲さん」
「他人行儀だなぁ……。呼び捨てがいい」
(めんどくさい人……)
「分かったわ、紅玲」
千聖が内心うんざりしながら呼ぶと、紅玲は満足そうに口角を上げた。
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