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官能小説家のリアル
第1章 新しい仕事

大学が終わった午後。父親の車を借り、澤井美波(さわいみなみ)は書店へやって来た。
急いで店内へ入り、目的の雑誌を手に取る。会計をすると、急ぎ足で車へと戻った。
「あっ……」
美波が真っ先に見たのは、投稿小説の発表欄。大賞と佳作に該当者は無く、その下のA賞一作品にPNとして使った“みなみ”の名前と作品名。
「…………」
長文の批評もあり、良い部分と注意点などが色々と書かれていた。
書店近くの駐車場の中で、震えが止まらない。
A賞はデビューには値しないし、賞金も五千円。でも投稿した中で一番だと評価されたことが嬉しく感動でもあった。
美波が小説を書き始めたのは中学生の時。その頃は拙く小説にさえなっていなかったが、アイディアは使えかもしれないと、数年前に見つけてから保管してある。
嬉しさから震える手で、ドリンクホルダーにあった紅茶を飲んだ。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
美波は都内にある大学の二年生で、20歳になったばかり。
両親と美波と六つ違いの妹の四人家族。公務員の父親は、美波にも公務員になるよう勧めていた。
それでも、美波が密かに目指すのは小説家。それは、小説を書き始めた頃からの夢。
中学生の終わりにBL(ボーイズラブ)という男同士の恋愛物にハマってからは、高校生になってもBLばかり書いていた。
今投稿しているのもBL。可能な限りの雑誌に投稿し、その半年後の結果発表に一喜一憂する。
それを二年も繰り返し、もう諦めた方がいいのかとも考え始めていた。でもいつか。という思いも捨てられずにいる。
夕食の後風呂へ行こうとして、美波は鳴り出したスマホに出た。
表示されているのは電話番号だけ。
「はい?」
『夜分に失礼します。雑誌Rの編集担当の小林亮子(こばやしりょうこ)と申しますが。澤井美波さんの携帯でよろしいでしょうか』
「はい……」
そう言ってから、美波はこの前A賞をもらったBL雑誌だと気付いた。
もう次の作品に取りかかっていて、気持ちはそれへ向いている。

