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官能小説家のリアル
第3章  決心



 真夜中。美波は溜息をついた。
 目の前にあるのは、真っ白なノートのページ。
 何も浮かばない。
 そんなことは、小説を書き始めて初めてだった。
 まだ文章に出来ない頃から色々なストーリーが浮かぶ。それはジャンルなど関係なかった。
 ファミレスで飯野と会ってから三日。
 プロットを作る決心はしたが、どんな物語にすればいいか分からない。
 ジャンルが違うだけでこんなに苦しむとは、考えもしていなかった。
 イベントの時飯野から渡された見本誌は桃恵が持ち帰り、“面白かった”というメールは読んだ。
 美波自身も無料の小説サイトで“男性向け”の官能小説を読んでみたが、昔のイメージとは大分違っている。
 素人が書くサイトだったが、上手い下手ではなく、根本的なものが。
 美波が初めて“男性向け官能小説”を手にしたのは中学生の時。古書店でタイトルが気になり、他の小説と混ぜて購入した。
 ドキドキしながら読み始めたが、難しい漢字ばかりで、ただいやらしさを追求しただけ。それは美波が中学生で、“性”に対して未熟だったせいもある。でもさっき読んだ、素人投稿の小説は違った。
 誤字脱字や表現技法は、校閲が入らない素人だから仕方がない。でもポップさや笑える部分もあり、興味を引かれて楽しく読んだ。
 これなら自分にもと思い、案を出そうとノートを開いたが、何も出て来ないまま数時間。
 ジャンルの壁というものを痛感した。
 美波はいつも、提出プロットの前にノートに簡単な下書きをする。それは、自分にしか分からないくらい雑なもの。
 今はそれさえも出ず、美波はスマホを手にし、もう登録済みの飯野へかける。
 この時間なら、留守番電話だと思いヒントが欲しいと録音しようとした。
『はい。飯野です。みなみ先生。どうなさったんですか?』
 ハッキリとした受け答えは、寝ていたものではない。
「えっ。すみません……。留守電、だろうと思って……」
 美波は、相手には訳の分からない言い訳をしてしまう。


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