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官能小説家のリアル
第3章  決心


『まだ、編集部です。今日は徹夜になりそうで』
 飯野は笑っていた。
 編集部にはよくあることと、美波は聞いている。
 雑誌自体の締め切り日後などは、色々と忙しいらしい。
 普段は綺麗にしている女性編集者も、編集部に泊り銭湯を使うと聞いたことがある。
『催促ではないんですが。プロットはいかがですか?』
「あ。それが……。全く進まなくて……」
 忙しい中悪いとは思いながらも、美波は言葉を続けた。
「白紙、なんです。頭の中が……」
『そうですか。リラックスしてください。ジャンルが違うことばかりに捕らわれず』
 そう言われ、美波はセックスシーンについて考える。
 大雑把に言えば、愛撫して、挿れて、放出するのは同じ。BLと違うのは、性別だけ。
 でもBLでは、女性役になる“受け”を本当の女性のように扱う時もある。
 “この体位じゃ、入んないよねー”と思いながら普通の騎乗位を書いたり。
 その点、男女なら美波にも充分経験がある。
 でも、一番の問題はストーリー。
「あの。ストーリーについて、何か特集みたいなものはありませんか?」
 BL雑誌ではよくある。その号によって、“年下攻め”や“身分違い”などという軽い括りみたいなもの。
『予定の次の号からテーマを決め、まずは“緊縛”の特集ですが』
「そこで書かせてくださいっ」
 緊縛なら、BLでもよくあること。緊縛へ至るには、それなりの関係性が必要。愛が実ってセックス。さあ、いきなり緊縛プレイとはならないはず。
 そう考えると、美波はアイディアが浮かんで来た。
『ありがとうございます! では、“緊縛特集”の号に予定を入れておきます。詳しいスケジュールについては、後ほどメールでよろしいですか?』
 飯野がメモを取りながら言う。
「あ、はい。すみません。お忙しいところに」
『いいえ。いつでも連絡してください』
「あ、あの、失礼します」
 美波は慌てて通話を切った。それと同時に、「違ったのにー」と口に出す。
 飯野は、会った時に“プロットだけ”と言っていた。美波もそのつもり。


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