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官能小説家のリアル
第5章 関係

「マンハッタンです。カクテルの女王と言われているんですよ」
赤褐色なのに透明な、不思議な色。魅惑的、と表現していいかもしれない。
美波はまた、“メモりたい”という気持ちを抑える。
お酒に興味は無くても、知りたいという思いは人一倍。何でもネットで知ることは出来るが、体験とは大きな違い。だから海外が舞台の小説を書く時は、取材にも出る。雑誌社が、飛行機代を負担してくれるのは助かっていた。
でも、そういったプロットは通りにくい。
「美波さん?」
「は、はい?」
何かにつけて小説に結び付けてしまうのは、美波の悪い癖。本人も分かっているが、どうしようもない。
「せっかくのデートですから。美波さん、とお呼びして構いませんよね?」
「えっ? あっ、は、はい……?」
何とかしなくてはと思っても、美波もこの時期に飯野の機嫌を損ねたくなかった。
最終締め切りまで、もうそんなに余裕は無い。せっかく書いた別ジャンルでのデビューを、無駄にしたくなかった。
「でも、仕事があるので、早めに帰りたいんですが……」
「そうですか。仕事と言われたら、止められませんね」
美波は、ホッとしながら飯野と同時に立ち上がる。
「送ります」
「いえ、大丈夫です。タクシーですから」
「では、タクシー乗り場へ」
そこまで言われては断われない。
タクシー乗り場へ着くと、飯野も一緒に並ぶ。
「二稿、拝見しました。校閲に回しますね。週明け早めには、お返し出来るようにします」
「はい。ありがとうございます。どうですかね、あの内容……」
美波に自信が無いなど、デビュー時以来。
自信家ではないが、小説に対してはプライドを持っている。自信が無い原稿なら、提出しない。とことん突き詰めた結果、“やれることはやった”という満足感。
ジャンルが違うと、ここまで難航するとは思わなかった。決心した時は、同じ官能系なら書くことは平気だと思っていた。
でも“萌え”のポイントが全く違い、全く違う世界。男女の感性の差を実感した。
「校閲さえ終われば、すぐですね」

