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官能小説家のリアル
第6章  アプローチ



 仲間と昼食を終えて直哉がデスクへ戻ると、畑中恵梨香(はたなかえりか)が缶コーヒーを渡してくる。
「どうぞ。間違えて押しちゃったから」
「ありがとう。払うよ。どうせ飲みたかったし」
 コーヒーなら無料のサーバーにあるが、渡された手前断わるのも悪い。
「いいよ。今度奢って」
 恵梨香が悪戯っぽく笑う。
 彼女は直哉と同期で、同じ経理課。
 小柄で華奢なため大人しそうに見られるが、性格はその真逆。たまに煩い程良くしゃべり、課長に注意されている。
「ねぇ、相良くん。最近、遅くまで残業してるね。前は早めに帰ってたのに。恋人と別れた?」
 言葉に詰まった直哉を見て、恵梨香が驚いた表情になった。
「えっ? 図星? ごめん。冗談、だったんだけど……」
 恵梨香も決まり悪く苦笑いする。
 はっきり別れたわけではないが、半月も連絡を取っていない。出来ないまま、直哉は残業に逃げていた。
 美波に会いたい気持ちはある。謝って、やり直したいとも思った。
 でもここまで途切れてしまうと、もう諦めた方がいいのかとも考え始めている。
 あの男の方が、美波に似合う。自分なんかよりずっと。
 イケメンで編集長。そんなポストに就けるなら、高学歴のはずだと思った。
 直哉は、全ての点で美波に劣っていると思っている。
 お互い私立だが、美波の大学の方がランクが上。美人でスタイルもいい。その上小説家という凄い職業。
 普通の仕事の人間からすると、小説家というだけで凄いと思うもの。ジャンルなど関係なく。
 小説を書ける。自分とは世界が違う人種だと感じる者もいるくらい。
 直哉も、それに近いものがあった。
 小説家は“先生”と呼ばれる職業。学校以外で先生なんて、政治家や医師など。
 美波は“先生なんて呼ばれない”とよく言うが、直哉はその実際を知らない。打ち合わせなどに立ち会わなければ、通常“さん”付けで呼ばれていると分からない。
「相良くん。良かったら、今晩呑みにいかない? パーっとね」
 恵梨香が元気付けようとしているのは分かった。


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