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官能小説家のリアル
第7章 溜息

美波がマンションへ着く一時間前。
恵梨香からの告白への返事は保留にしてもらい、直哉は美波のマンションへ向かった。
何にせよ、美波とのことをきちんとしなければいけない。それが直哉の思いだった。
告白されたからではない。美波と、曖昧なままでいるのが堪らなく嫌だった。
「いない……?」
マンションを見上げると、美波の部屋に灯りが無い。
奥の部屋で仕事をしていても、美波はいつもリビングの電気を点けておく。
以前恥ずかしそうに、“暗いと怖いから”と言っていた。
美波は“お化け”の類が苦手。だからテーマパークへ行った時も、“ホラーハウス”を嫌がっていた。結局は、出口まで直哉にしがみついて目を瞑ったまま。
暗い夜が怖い美波が、暫く一人で夜を過ごしている。直哉は、出来るなら傍にいてあげたかった。美波が、そうして欲しいと望むなら。
念のためエントランスのボタンを押したが、誰も出ない。
一瞬、引っ越したということも考えたが、カーテンは直哉が一緒に買いに行った物のままだった。
また、あの編集長と出かけているのかもしれない。
それでも、一度会ってきちんと話したかった。あの晩のことを謝りたかった。
待っていれば迷惑になるかもしれないと思い、直哉は駅へ戻って行く。
何度か振り返っても、やはり灯りは無い。
電話をして、それで別れを告げられたくはなかった。
しつこく食い下がる気も無い。
直哉はただ、最後になっても美波に会いたかった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
十一月に入り、美波は予定の全てを終えていた。
飯野の所の原稿は、二月まででいい。校閲を終え戻っていたが、そんなに直す箇所は無いと確認はしてある。
次の締め切りは二月以降。
さすがに年末年始は編集部も休み。臨時で出る編集者もいるが、それは担当する作家によって。
美波はゆっくり休みたいために、一月中締め切りの原稿は取らない。
直哉と付き合う前は、イベント後出発で作家仲間と海外へ行ったりもしていた。

