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官能小説家のリアル
第7章 溜息

今年はそんな気になれないし、今更チケットも取れないと思い、美波は実家へ帰る予定でいる。
編集者からの連絡はスマホへ来るから問題なし。
家で使っているデスクトップパソコンに届いたメールは、持って行くノートパソコンへ転送されるようセッティング済み。
説明書を探すのに手間取り、もうこのままにしておこうと思った。
平和と言えば平和。退屈と言えば退屈。
直哉が来なくなって一ヶ月。
来ていた時がどうだったのか、忘れそうになる。
溜息をついてから、美波はイベント用の荷物の用意に取りかかった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
会社から戻った直哉は、スマホの前で悩んでいた。
会いたい気持ちはあるが、いつもすれ違い。
いっそ、電話をかけてしまおうかと思った。でももし、電話で別れを告げられたら。それが怖い。
別れることは覚悟していた。それでも、会ってきちんと話したい。
支度をすると、直哉はマンションを出た。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
インターフォンの音に、手を止めた美波が近付く。
「直哉!?」
それだけ言いロックを外すと、美波は玄関へ行った。
少しして、ドアがゆっくり開く。
そこにいたのは、真剣な表情の和哉。
「あ……。久し、振り……」
あれだけ会いたかった美波だが、いざ目の前にすると直哉は上手く言葉が出なかった。
気軽に、“美波”と呼んでいいのかさえ。
それまで密に会っていたせいで、会えなかった一ヶ月を何ヶ月ものように感じる。
「直哉……?」
美波は、直哉の様子がおかしいのが不安だった。
会いに来てくれたのは、何か用事があるから。それなのに彼は沈んだ表情。
玄関に立ったままの直哉が、突然頭を下げる。
「ごめん! オレ、美波に酷いことした」
二人とも、あの夜のことを思い出していた。
無理矢理のセックス。
そこに、愛情は存在していなかった。
哀しみだけがぶつかり合う、切ない時間。
「直哉、上がって……?」
「いいの……?」
頷く美波を見て、直哉は見慣れたリビングへ行く。
「引っ越し?」
段ボール箱と周りにある荷物を見て、直哉が呟く。

