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官能小説家のリアル
第7章 溜息

「マンションの鍵を渡されてて。休みの日に、会いに行った。そしたら、知らない男とベッドにいて……」
聞いた美波もショックを受ける。そんな過去があれば、恋人が他の男と出かけただけでも嫌だろうと分かる。
「ドアを開けた時、声が、聞こえた……。それだけは、今でもはっきり覚えてる……。それから暫くは、女性が信じられなくなって……。美波?」
美波は、自分でも分からずに泣いていた。
「ごめん。その子を、引きずってるわけじゃないから……。でも、あの男と一緒だった美波を見て、またか、って思った……」
何度か頷いた美波から、大粒の涙が落ちる。
直哉の心の痛みが、苦しいほど美波へ伝わっていた。
どれだけつらかっただろう。苦しかっただろう。
小説で心理描写を大事にしている美波には、それが自分のことのように感じられた。
「直哉……」
美波から抱き着いた。その背中に、直哉の腕が回る。
「もう、こんなこと、出来ないと思い込んでた……」
直哉も、自然と瞳が潤んできた。
「オレ、一緒にいたいってばっか言って……。好きだから、傍にいて欲しかった……」
「私は、傍にいるよ。ずっと……。会えない時でも……」
直哉は、美波の言葉に愕然とする。
一緒にいる。二十四時間毎日は、誰にだって無理。離れていても、会えない日があっても、心が傍にいればいい。
過去のつらい経験のせいで、直哉は心のどこかで、美波を見張ろうとしていたのかもしれないと感じた。
体を離した美波が、直哉を見つめる。
「飯野さんとの仕事は、最初で最後にするから」
「美波は、出来る限りの仕事を受けるんだろう? 好きだから、頑張ってるんだろう?」
そう言われると、美波は言葉が継げなくなった。
書くことが好きだから、限界まで仕事を受ける。求められるなら、それに応える。美波は、今までそうやってきた。
「全部分かったから、平気だよ。その代わり、オレのことは、飯野さんに話して欲しいけど……」
「うん。ちゃんと話す」
美波の笑顔を見た直哉が、姿勢を正す。
「改めてだけど。これからも、傍にいてください」

