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没落お嬢さま
第1章 プロローグ
ディナーの時、亮生は、壁際に立ち並ぶメイドたちの末席に、確かに、いずみの姿もあるのを確認したのだった。
いずみは、亮生とは同い年で、頻繁に会うような関係ではなかったものの、学校を卒業したら結婚する約束をしていた娘である。
これは、亮生が幼い頃から決められていた話であって、上流社会ではよくある慣習なのだ。
ところが、いずみの親は事業に失敗して、高額納税者から一転して、いきなり多額の負債を抱えて破産してしまった。
それどころか、この両親は、娘一人だけを置いて、衝動的に心中に走ってしまったのだ。
突然、天涯孤独の身になってしまったいずみも、きっと途方にくれたに違いあるまい。
彼女は、相続放棄する事で、親の借金を肩代わりせずに済んだが、代わりに本当の無一文になってしまった。
あまりにも彼女が不憫であったので、亮生の両親は、彼女の身を我が家で引き取る事にしたのである。
と言っても、家族の一員として迎え入れた訳ではない。
いずみを、住み込みの使用人として雇ってやる事にしたのだ。
そこには、全く知らない人たちと混ざって働くよりは、幾分か、彼女にとってもマシだろう、と言う配慮があった。
実際に、あてもなく、生活していく術も知らなかったいずみは、その厚意をすぐに受け入れる事にしたのであり、今日から、その奉公が始まったのである。
メイド服をこざっぱりと着こなしているいずみの姿をあらためて観察すると、彼女は、その美しい顔をずっと下へとうつむかせていた。
それは、屈辱できつく歪めていた表情を、必死に見せまいとしていたようにも感じられた。
いずみは、亮生とは同い年で、頻繁に会うような関係ではなかったものの、学校を卒業したら結婚する約束をしていた娘である。
これは、亮生が幼い頃から決められていた話であって、上流社会ではよくある慣習なのだ。
ところが、いずみの親は事業に失敗して、高額納税者から一転して、いきなり多額の負債を抱えて破産してしまった。
それどころか、この両親は、娘一人だけを置いて、衝動的に心中に走ってしまったのだ。
突然、天涯孤独の身になってしまったいずみも、きっと途方にくれたに違いあるまい。
彼女は、相続放棄する事で、親の借金を肩代わりせずに済んだが、代わりに本当の無一文になってしまった。
あまりにも彼女が不憫であったので、亮生の両親は、彼女の身を我が家で引き取る事にしたのである。
と言っても、家族の一員として迎え入れた訳ではない。
いずみを、住み込みの使用人として雇ってやる事にしたのだ。
そこには、全く知らない人たちと混ざって働くよりは、幾分か、彼女にとってもマシだろう、と言う配慮があった。
実際に、あてもなく、生活していく術も知らなかったいずみは、その厚意をすぐに受け入れる事にしたのであり、今日から、その奉公が始まったのである。
メイド服をこざっぱりと着こなしているいずみの姿をあらためて観察すると、彼女は、その美しい顔をずっと下へとうつむかせていた。
それは、屈辱できつく歪めていた表情を、必死に見せまいとしていたようにも感じられた。