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星逢いの灯台守
第1章 名も知らぬ薔薇
…何年ぶりだろうか…
宮緒真紘は内房の小さな町の駅舎に降り立った。
僅か一両編成の列車は、ごとごとと長閑な音を立てて目前を走り去っていく。


宮緒は古びた待合室のベンチに腰掛けると、ジャケットの内ポケットから煙草を取り出した。
ライターで火を点け、ゆっくりと吸い込む。
壁に貼られた一昔前の広告を見遣りながら、思いを馳せる。

…母親が生きている時分は、年に何回かは帰郷したものだったが…。
七年前に母親が亡くなってからは、殆ど訪れることもなくなっていた。


宮緒は中学から横浜の私学に通った。
そこは学費が高く、毎年東大に数十人も合格することで有名な全寮制の私学であった。
宮緒を認知した父親が、取計らってくれたのだ。
愛人の子どもとは言え、学業優秀な宮緒を父親は目を掛け、教育を惜しまなかった。
本妻との息子に対するものと変わらぬほどの援助をしてくれた。

この田舎の町から不動産業を一から立ち上げた父親は、自分の血を分けた息子である宮緒を大事にした。
血族こそ財産だと考えていたのだ。
「いざとなる時に頼りになるのは身内だ。
お前はうんと勉強して賢くなって兄の直人を助けてやってくれ。
そしてこの片岡の家を縁の下で支えてくれ」
事あるごとに繰り返した言葉だった。

宮緒は、陽気で大らかな漢気のある父親を嫌いではなかった。
母親に充分な生活費を渡し続けていたし、小さいながらも持ち家も与えてくれていた。
世間からは密かに白い目で見られてはいたが、片岡の名前の威力の強いこの町では、あからさまに虐めたり村八分にするものはいなかったのだ。

…けれど、父親に対して卑屈とも言えるほどに遠慮ばかりしている母親を、宮緒は時には冷ややかな眼差しで見つめていた。

…なぜ、そんなにも卑屈になるんだ。
愛人はそんなに悪いことなのか?
だったらなぜ、僕を産んだんだ。
父親を、繋ぎ止めるためなのか?
それらの疑問や不満を、口に出しはしなかった。
母親の複雑な心境を、宮緒は分からないわけではなかったからだ。

だから母親に対しては、ただひたすら淡々とやり過ごした。
勉学やスポーツに励み、父親に気に入られ、母親を安心させた。

…すべては、この町から逃れるためだった。
この町から逃げ去り…ここではない、誰も宮緒を知らないどこか大きな街に、行くためだったのだ。




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