この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
フリータイム
第2章 終電と眠る女
 動き出した電車が揺りかごになって、良い気分でした。停車していた電車が走り始めたとき、毎回床下から徐々に回転数が上がっているかのような音が聞こえますが、これはモーターの駆動音なのでしょうか。そのゆっくりとした音響が疲れた脳味噌を微睡みの世界へと誘うんですよ。これがまた気持ちいい。

 窓に目を向け、もの凄いスピードで移り変わっていく景色を眺めました。

 何の見栄もない景色です。地方を走る電車はすぐに都市部を抜けるため、二駅ほど離れてしまえばそこはもう中途半端な田舎町。

 ここ数年で老朽化した駅の建て替えが進んで、建物の見てくれは新しいのですが、町はビルの明かりすら乏しく、夜の闇が光を呑み込まんとしています。

 都市を出たら最後、ここから私が降りる駅までは、微かな明かりが散りばめられた暗黒の景色が続くのです。なんの気晴らしにもなりやしない。まるで今の私の心象の中を旅行バスが案内しているかのようでした。


【えー皆様、窓をご覧下さいませ。外に見えますのが闇。時岡貞夫の心の闇であります。会社のストレスと、家庭のストレスより生まれまして……眼を細めてよくご覧下さいませ。闇の中に漂っております、あの米粒のような光が見えますでしょうか? あれは希望。あれは活力。あれは生き甲斐。今正に時岡の闇が、時岡の全てを食べ尽くそうとしているのでございます。このままではお先真っ暗、お先真っ暗なのでございます】


 ……そんなネガティブ思考が人の姿となって、ストレートに解説してきそうです。せめてスタイル抜群のお姉さんが解説してくれるのなら嬉しいかもしれませんが、あいにくと私の心に棲んでいるのはくたびれた中年のおっさんが一人だけ。

 いっそのこと、この瞬間に隕石でも落ちてきたらどうだろうと思ったりしました。人生ハッピーな人には迷惑きわまりない話でしょうが、私のような干からびたサラリーマンはごまんといるはず。そして私のようなアブナイ思考を持っているくたびれたサラリーマンも沢山いることでしょう。

 ここらで一つリセット。全てをゼロに戻して、再スタート。そうなれば、今まで私が歩んだことのない新しい人生を始められる。……そんな有り得ない夢を抱いて、私はこの無情な景色を眺め、ついでに車内の明かりで窓に浮かび上がった己の面とも睨めっこをしておりました。
 
/18ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ