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第12章 兎と蛇

「ねぇユイ、キスしていい……？」


鼻先が当たりそうなほど近い距離。

彼の甘い声と甘い空気。
そして、みんなからは見えない死角。


……こんなの断れるはずない。



「……うん、いいよ。」



彼の服を掴んでそう答えると、
彼の柔らかい唇が優しく私の唇に重ねられた。

外だから遠慮してるのかな。
初めてキスをするみたいな、重ねて離しての繰り返し。

それなのに、すごく甘い。


「ん……」

「……大丈夫、悪い子なユイも大歓迎だから。もっと素直にワガママ言って、感情だして？」


彼がなだめるように声をかける。

その言葉に小さく顔を頷かせれば、
彼は応えるようにまた私の唇を塞いだ。


……もっと素直に、ワガママと感情を。


私は顔を引いて彼から唇を離し、
今抱いている、しょうもない心の内を告げる。


「……ね、くろ…。」
「ん？」


自分でもどうかと思うけど。







「……その、ヤキモチ焼いちゃってモヤモヤする…から、
……もっと甘いキスして……？」







上目遣いでねだるように言うと、
彼は少し目を見開いた。

皆から見えないとはいえ外なのに。
淫乱だって引かれちゃう？

でも、これが今のわたしの素直な気持ちだから
どうしようもない。


彼はスッと目を細めて、熱っぽい表情で私を見つめる。


「……俺のこと性欲強いって言っときながら、ユイも大概だね。」
「くろのせいだもん……。」


小さく会話をしながら、
彼はゆっくりと距離を縮めて深く私に口づける。
薄く開かせた唇に、彼の熱い舌がそっと差し込まれて。

音を立てないように、丁寧に慎重に舌を絡める。


「ん……ふ……っ」


遠くから聞こえる賑やかな人の声。

……誰にもバレちゃいけない、二人だけの秘密みたい。

そう思えば思うほど、
気持ちが昂ぶって身体の熱が上昇していく。

私からも大胆に舌を絡ませると、
彼がピクッと身体を強張らせた。

可愛い反応。


「ん……ちゅ、んぅ……っ」
「……っ」


舌の先端で彼の舌をくすぐって擦り合う。
そのあと、深く舌を絡め取るの。

いつも彼がするやり方。

それを真似て私が積極的になっていくと、
彼がぐっと手に力を込めて唇を離した。

額同士をくっつけて、
彼が名残惜しむように私の唇を舌でなぞる。