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裏切りの幼なじみ
第9章 初心な美人女医
「えっ……きょうですか? いや、大丈夫ですが……午後の二時ですね。わかりました……はい。もちろんです……」

通話を終え、笹原由梨は、ふぅ、と息を吐く。一度落ち付くためだ。白衣がシワにならぬよう、ヒップにそっと手を添えながらデスクの椅子に腰かける。

ぷりぃっ……!

着座の瞬間、布がはち切れる音が診察室に響き、はっと息をのむ。

「また、やっちゃったわ……もう、いやんっ!」

内股の太腿を震わせながら由梨は両手で顔を被う。自分しかいない空間で真っ赤になりながら、白衣を脱ぎ、続けてタイトスカートのベルトを緩めた。

二日前にも床に落としたペンを拾おうとして、お気に入りのぴっちりスカートを破いている。そして今回。どちらも二十代前半の頃に買った高級品だ。

「体重は変わっていないわ。ウエストだって大丈夫。だから自信満々で履いてきたけれど、こうも続くと……」

認めざるを得ない。お尻が大きくなっている。むしろ平均に近づいたというべきなのかもしれない。

いまでも由梨は平均体重よりずっと軽く、スリムなモデル体型だ。女友達から「細くてうらやましい」と飽きるほど言われ「食べても太らないの」と涼しい顔をして生きてきた。

「スカートの替えがないわ。でも、いまから買いに行くのもねぇ……」

運悪く一時間後に急な予約が入り、対応を余儀なくされている。

(いきなりきょうだなんて。わたしにだって心の準備ってものが……)

これまでも、そうやって自分自身に猶予を与え続けてきた。「まだ早い」とか「もう少し準備が必要」と。気付けば男を知らないまま二十九歳を迎えてしまった。

小顔ながらふっくらとした輪郭に黒髪の前下がりショートボブ。いつも二十二、三歳に見られる童顔ゆえ、あえてコンタクトから眼鏡に替えた。

(医師として、らしくありたい……でも三十歳まで一年を切ったいま、女として後悔しないためにも、一歩踏み出さなきゃ……)

診察室のカーテン裏で、姿見に己の女体を映す。

コンコン……。ノックの音がした。

(だ、誰よっ! いま下半身はレースのショーツ一枚なのにっ)

カーテンに隠れながらドア口を確認すると、ソロリと開き、覗き込む少年と目が合う。

「入ってこないでっ!」
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