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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
「…拙政園か…」
澄み切った秋の日差しが射し込む中、ゆっくりと歩きながら明時代の名園を眺める。
「拙政園は中国四大庭園のトップにも挙げられる美しい庭園です。
敷地内は東園、中園、西園の三つの庭園からなりますが、特に美しい風景が見られるのは中園です。
こちらの遠香堂からの眺めは絶景と評判なのです」
暁蕾は分かりやすく丁寧にガイドしながら、片岡を中園へと誘った。
平日のせいか観光客も疎らで、庭園は長閑な空気に包まれていた。

…秋でも変わらずに、柳の緑が目にも鮮やかだ。
古式床しい明時代のお堂の周りには柳の木が囲むように植えられ、そのしなやかな枝垂れた葉を揺らす。
…あの時も…そうだったな…。

翡翠色の池を湛えるアーチ橋のたもとに蘇芳色のチャイナドレス姿の澄佳を佇ませ、写真を撮った。

…「…恥ずかしいわ」
困ったように微笑う澄佳にスマートフォンのカメラを向ける。
「君が美しすぎて、皆が見ているよ」
「…もう…直人さん…」
澄佳の白い頰が桃の花のように美しく染まった。
近づいてそのしなやかな髪を直す振りをして、そっと唇を奪った。
潤んだ瞳は、夜の池のようにしっとりと煌めいていた。


…「春は桃の花が見事なのです。
辺り一面、桃色の絨毯を敷き詰めたように…まるで絵画の世界に飛び込んだようになるのですよ」
前を行く暁蕾が振り返り、微かに微笑んだ。
かつての恋人に重なりはするが、やはり別人だ。
当たり前だ。

…澄佳に似ているが、やはり澄佳ではない…。

「どうしました?」
見つめる片岡を不思議そうに首を傾げる。
口を開きかけた時…

「…ターレン、お花はいかが?
綺麗な薔薇の花ですよ」
チャイナピンク色の中国服を着た花売り娘がにこにこと現れ、片岡に真紅の薔薇の花を差し出した。
昔の思い出が、古いシネマのように蘇る。

よくある観光地の売り子だ。
慣れている暁蕾は
「今はいらないわ」
と北京語で断った。

「…ひとつ貰おう」
片岡は二十元札を花売り娘に手渡した。
素朴なお下げ髪の娘はその額の多さに眼を丸くした。
「払いすぎだわ」
嗜める暁蕾に受け取った薔薇の花の茎を短く手折り、そのハーフアップの髪に挿した。

「…綺麗だ…」

…かつて澄佳にも飾った薔薇の花…。

同じように美しいが、それはかつての澄佳ではない…。

…この生き写しのような娘は、暁蕾なのだ。





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