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蘇州の夜啼鳥
第3章 大きな河と小さな恋
「…もう一度だ…。シャオレイ…。
もう一度キスして…」
「…んっ…片岡さ…」
「直人だよ、可愛いシャオレイ…」
「…直人さ…ん…あっ…んん…」
暁蕾の甘く柔らかな、薔薇の蕾のような唇を飽かずに食む。
開け放した窓から、秋のひんやりとした夜風が水路を渡り入ってくる。
情事のあとの火照った二人の身体を優しく冷やす。


…風呂に入り、そのまま寝台に雪崩込み、お互いを狂おしく需めあった。
激しく…ひたすらに甘やかに愛し合った。
最後は、指一本も動かせないほどに…。

暁蕾に腕枕しながら、その艶やかな長く美しい髪を愛おしげに撫でる。
「…明日、一緒に上海に行こう」
「上海?」
掠れた気怠げな声も艶っぽい。
「弟夫婦に君を紹介したい。
俺の奥さんになるひとだからな…」
「…恥ずかしい…」
片岡の胸に貌を埋める暁蕾が可愛らしい。
「上海で婚約式をしたいな。
…それから、日本に来てくれるか?
…日本には、あまり良い想い出はないかもしれないけれど…。
もう君と片時も離れたくはないんだ」
やや心配そうに尋ねると、暁蕾は美しい貌を上げ、微笑んだ。
「いいわ。貴方の行くところならどこでも…」
「…シャオレイ…」
「貴方のいるところが、私の居場所だもの…」
名も知らぬこの国のいにしえの白い花のような笑顔を見せる。
その白い頰を撫で、再び抱き締める。
「…シャオレイ、あの唄を唄ってくれないか?」
「あの唄?」
「この間、唄ってくれた唄だ」
…ああ、と暁蕾は無垢な赤ん坊のように微笑った。

「…いいわよ」

…水路を渡る夜風に乗り、暁蕾の美しい唄声がふわりと漂う。

バルコニーに吊るされた鳥籠の夜啼鳥が、その美しい唄声に魅せられたように唄い出す。

夢のようなひととき…
けれど、夢ではない
…暁蕾は、ここにいる。
…片岡のそばに、いるのだ。

…大きな河と、小さな私たち…
けれど、これは世界一の恋なのです…

片岡は抱き寄せて、囁いた。
「…愛している…シャオレイ…」

暁蕾は、返事の代わりに唇を寄せた。

「…我愛称…」

…蘇州の夜啼鳥が、やがてそう唄うだろう…。






〜la fin〜









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