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恋がしたいと言いながら
第4章 オフィス
 パソコンに向き直ると新着メールが一通、入っていた。差出人はいつも備品を注文している業者さんだ。
 定型文の挨拶の後『こちら、ご注文ですか?送信違いでしょうか?』と続いている。
 添付ファイルを開くと前回、注文のやり取りに使った発注書が現れた。
 しかし前に記入した注文内容は黒く塗り潰され、その脇にうっすらと殴り書きのような文字が見える。
 私はちら、と土井さんを見た。間延びした声で「はぁい」と答えるだけのひとみちゃんにまだなにか言っている。
 宛先に土井さんが入っていないところを見ると、先方も彼女の仕業だとわかっているのだろう。
 それなら本人に聞いてほしいが、客とはいえ面倒な人間には関わりたくないのが人情だ。
 こんなことを問い合わせたら「ちょっと考えたらわかるでしょう!」とネチネチ嫌味を言われることが容易に想像できる。
 土井さんのなかで書面を使い回すことは横着なんかではなく、新しい発注書を印刷するより早くて賢いエコなやり方なのだ。
 私は心のなかで業者さんに頭を下げつつ、さっさと新しい発注書をつくって返信した。
 改めて土井さんの発注書を眺めてみる。
 なんて醜い書類なんだろう。社内の誰よりアナログなくせにきれいな字も書けない。発注書は使い回さないという簡単なルールさえ守らない。
 自分の都合が最優先で相手を思いやることが壊滅的にできない。彼女のそういう歪んだ性根が凝縮されたような一枚だ。
 この先なにがあっても、こんなものを平然と外へ出せるような女にだけはなりたくないものだと私はひっそり思った。
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