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夜明けまでのセレナーデ
第3章 Tango Noir 〜禁じられたお伽話〜
…震える手で、手紙の封を開ける。

無骨で…決して上手ではないが、一字一句丁寧に書かれた字が眼に飛び込む。
…懐かしい…十市の字だ…。
涙を堪えながら、文面を追う。

…「紳一郎さま
元気ですか。空襲はありませんか。風邪はひいてませんか。
俺は元気です。
今、ルソン島という島にいます。
日本は冬だと思うけれど、ここは常夏の島です。
珍しい花や植物、動物を毎日たくさん見ます。
坊ちゃんにも見せてやりたいです。

やっと手紙を書くことをゆるされました。
けれど、書いて良いことは限られています。
だから、これだけを書きます。
俺の伝えたいことはこれだけです。
愛しています。
愛しています。
俺は、必ず坊ちゃんのもとに帰ります。
絶対に、帰ります。
生きて帰ります。
だから、坊ちゃんも元気で生きていてください。
もうすぐ、クリスマスですね。
メリー・クリスマス。
幸せが、坊ちゃんのもとに来ますように… 十市」

「十市…ばかだな…。
こんなの…検閲されるのに…」
紳一郎は泣き笑いしながら、手紙を抱き締めた。

…愛しています。
その文字を、指でなぞる。
温かな、十市の温もりが感じられるような気がした。
「愛しているよ…。十市…」

…南方の…見知らぬ島にいる恋人…。
危険な任務に就いてはいないだろうか…。
きちんと食べられているのだろうか…。
心配は尽きないが、今、この時点では十市は無事なのだ。
この駐屯地宛に、返事を書くことも出来るのだ。
…生きているのか、死んでいるのか手掛かりすら分からなかった時とは全く違う。
喜びが、じわじわと湧き上がる。

「…十市は生きている…元気で、生きている…」
涙が止めどなく溢れる。
手紙を濡らしたくなくて、胸に抱き締める。
さながら、十市を抱くように…。

…そうして、そっと語りかける。

「…メリー・クリスマス…。十市。
神のご加護が、ありますように…」

…厩舎の外に、音もなく雪が降り始めていた…。










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